嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

龍源寺の前ん方は、

広ーか堤やったもんねぇ。

そいぎその堤には、

主の大蛇の棲んどっばーい、

ていう噂やったけど、

誰(だい)一(ひと)人(い)て

その姿ば見た者(もん)はなかったて。

ところが ある師走の年の暮れ、

村では毎年正月餅をお寺で

持ち寄って搗(つ)きよった、ちゅうもんねぇ。

ところが、

そん年に限って若(わっ)か者(もん)どま、

全部(しっきゃ)どめ流行(はや)い風邪で寝込んで、

年寄(としお)いの三人しか集まらんやたって。

「困ったない。餅搗く者(もん)のおらじぃ」て言うて、

「もう、年寄いもこりゃ餅搗かんばらん。

フーン、一日どめは搗き上げきらんばい」て言うて、

心配しおったらねぇ。

そいば、その堤ん主の大蛇の聞いたらしか。

そいで

若か者に化けてさ、お寺に餅搗きや来てくいたちゅう。

そうして、その若か者な調子の良(ゆ)うて、

ベッタンベッタンベッタンて

上手に搗いてくるっちゅう。

そいぎその、

「一昨日(おととい)も終わんみゃーだい」て、言うた餅搗きも

無事一日ですんだってじゃんもん。

そいぎねぇ、

村ん人達ゃあ、

「もうほんに良かったあ。お陰良かったあ」て、

夕方には搗き終わったもんじゃ。

あの、あったぎぃ、

加勢に来たその若か者なねぇ、よっぽど草臥れたとみえて、

お寺の板の間にゴローッて横になったぎぃ、

グウーグウー鼾ば太ーうきゃあーて、寝とったちゅう。

そいぎぃ、

村ん小父(おじ)達ゃ、

「あの若か者のはまって(没頭シテ)搗(ち)いてくいたけん、

お陰早(はよ)うー終わった。慣れん仕事して草臥れたじゃろう」て言うて、

言いよらしたぎ

和尚さんの、

「ぎゃん、板の間で寝とっぎ風邪引くー」ち言(ゅ)うて、

お布団ば出(じ)ゃーて来てソローッと着せんさったて。

あったぎぃ、

餅搗きに加勢に来たその若か者のねぇ、

その、そぎゃん騒動しんさっけん目覚まみゃあて、餅一切れでん食べじぃ、

「そいじゃーい」ち言(ゆ)うて、帰ってしもうたて。

そいぎ村ん者達ゃ、

「加勢してもろうたけん、こんなに助かったとこれ。

あの、餅も食べじ帰ったないば、

餡(あん)こ餅どん持って行たてやろうだあーい。

あいは何処(どこ)の青年やったろうかねぇ」て言うて、

聞くけど誰(だーい)も知らん。

今まで見かけん若者じゃったなあ」て、

ガヤガヤ、ガヤガヤと言うおっ時、

和尚さんの布団ば片付けさみゃ(カケテ)、

こうーして見おんさったぎぃ、

「ありゃあー、こけ太ーか

蛇の鱗(うろこ)の一枚ちいとっとがあー」て、

言んさたって。

そいぎ

誰(だい)でんねぇ、

「ありゃあー、

そいぎ堤ん主の大蛇の我が我が(自分達)困っとったけん、

加勢に来てくいたとばい」て言うて、

そいから先ゃあ正月の餅ば搗くぎいちばん口、その、

堤の土手に餅ば供ゆっぎぃ、

もう三日もせん内無(の)うないよったちゅう。

そいばっきゃあ。

[四五 本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P322)

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