嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

ある時ね、夏やったて。恐(おっそ)ろしかもう日照りで、

もう雨も何か月も降らん年やった。

稲でん野菜でん涸れおった。

何(なん)でんかんでん、井戸の水でん涸れて日照りのために、

もうほんなこて鳥も飲み物のなし困っとったあ。

その時、鳩と蜂とが仲良く助け合って暮らしおったじゃんもんねぇ。

もう水ちゅう水は、何処(どけ)ーでん溜まっとらんやった。

そいぎねぇ、

もう私(あたい)どんも死ぬほど近(ちこ)うなったなあ、て思うたっぎぃ、

百姓屋のすぐ上のバターンて、水がザーッて零(こぼ)るっ音が聞いた。

そいぎぃ、

鳩も蜂もたまらじそこさい飛んで行た。

そうして、

「お百姓さん、お百姓さん。どうか少し水をわけてください。

私(あたし)達(たち)ゃ、もうじき死ぬばっかいのごと

長(なご)う水飲まじおっ」て言うて、命がけで頼んだぎぃ、

お百姓さんがね、ちーっと水ば飲ませてくんさっ。

そいぎねぇ、そして、言んさっことにゃ、

「私(わたくし)どんの家(うち)も、ようようして水を溜めて汲んどった」て。

「お前(まい)達も、命をつないだ水でも、私達は

人間の命もこの水でつないでおっ。

あいどん、

可愛そうにね」ち言(ゅ)うて、そうして、あの、飲ませてくいた。

そいぎねぇ、

「あの、あいどんねぇ、ただでは飲ませられんばーい」て、

こぎゃん言んしゃ。

そいぎぃ、

「有難うございます。このご恩はもう一生忘れません」て言(い)うて、

鳩も蜂も百万だらのお礼ば言うた。

「そいぎと、今のう何(なに)いっちょでん持っとらん。

ほんなもう、命からがら水飲みたかて駆けつけたけん、

今、何いっちょも持っておりませんけん、本当にご恩はいたしますよ」

て言うて、一杯の水を貰うて、

「ああ、命の水やった。お助けの水やったあ」て言うて、

その水をユックリユックリ、蜂も鳩も飲んだて。

『末期の水』ち言(ゅ)うて、こがんことばいなあ。

体中にジーンて沁み込んだ」ち言(ゅ)うて、嬉しがった。

「あいどん、あの一口の水で恐(おっそ)ろしか元気が出てね、

お百姓さんに有難う、有難う」て言うて、飛んでいった。

そいから何年も経ってね、恐ーろしか今度何年か後には、

害虫のいろいろの虫のやあーて、

お百姓の田はもう、虫で食い荒らされたち。

「困ったにゃあ」ち言(ゅ)うて、

「手の打ちようのなかあ」て言うて、お百姓の言うたとば聞いて、

鳩と蜂は、「あん時のお礼ば今せんば。命の水ば貰(もろ)うたけん」

て言うて、

害虫はねぇ、卵ば産みつけたとも、もうかつがつ、

もう夜も日について鳩も蜂も捕って歩(さり)りいてくいたて。

あったぎねぇ、

あの百姓の畑ばっかいは立派に実ったてじゃんもん。

畑の物も田の物も一匹の害虫のおらんやった。

そいぎぃ、皆から羨ましがられて、

そいぎぃ、

「お百姓さんにはわかっとったて。あん時、水ば飲ませたけん、

あのお礼やったばいなあ」て言うて、わだかぶいしゃったて。

チャンチャン。

[四三  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P321)

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