嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

とっても優しかお爺さんがおらしたて。

お爺さんな一(ひと)人(い)暮(ぐ)らしじゃったてじゃんもんねぇ。

そいけん

猫とか、犬(いん)とか、蛇まで飼(こ)うて、

自分の友達しとんしゃったて。

ところが蛇の嫌いなお殿様が、

そのねぇ、蛇ば、あの、

恐(おっそ)ろしか嫌うて好きんしゃらんじゃったもんじゃい、

「蛇は見つけ次第に殺せ」て言う、お触れを出しんさったて。

そいぎ

お爺さな、蛇だけは小(こま)ーか箱に入れて、

縁の下に匿(かくま)って飼(こ)うとんさったいどんねぇ、

近所の者(もん)の

「あつこのお爺さんは、まあーだ蛇ば飼うとっばあーい」て、

告げ口したて。

あったぎぃ、

「殿様の言うことば聞かじぃ」て言うて、役人達の来て

「蛇ば何処(どこ)さいじゃいやらんぎぃ、

爺さん、お前さんの首ばはぬっぞう」て言うて、役人の来たて。

そいもんじゃあ、

爺さんな仕方なし箱に蛇ば入れて、

蛇の好物な食べもいっぱい入れて、奥山さん連れて行たて、

捨てて来んしゃったてぇ。

あったぎもう、

日にちの経つもんの早いもんで、

そいから三年も経ったある日、お爺さんが焚物ば取っていたぎぃ、

夕方になって、焚物ばいっぱい背中に背負って帰りおったぎぃ、

松の根で

「ああ、きつかったあ」ち言(ゅ)うて、腰ば下ろして、

そうして一休みしとったぎぃ、

目の前に蛇のヒョロヒョロって出てきて、

人間のごとものば言うちゅうもんねぇ。

そぎゃんお爺さんが捨てた蛇じゃったてぇ。

「お爺さん。長いことお世話になりました」て。

「それに山に捨てる時も美味(おい)しい好物ばっかい、

いっぱい詰めてくださって有難う」て。

「今日、お礼に来ました」ち言(ゅ)うて、口を太ーう開けて、

口ん中から丸かきれいか石ばべぇって吐き出したて。

あったぎねぇ、

お爺さんのその、きれいかにゃあ、と思うて、

石を見おんしゃったぎぃ、

もう蛇の姿は、そこん辺(たい)目(め)ぇかからん(見当たらない)て。

そいぎぃ、

お爺さん家(うち)さん帰って、

まあーだ家(うち)においとっ犬や猫に、

「今日はなあ、あの蛇に会(お)うて来たよう。

そうして、その蛇が、こんな物(もん)ばくれたばあーい」て言うて、

懐から蛇から貰った石ば出して見せんさったて。

そいぎねぇ、そがんしてからねぇ、

「ああ、夕飯どん炊かんばあ」て、お釜の蓋ば取ったぎぃ、

お釜にはもう、ご飯がいーぱいて。

そして、

お鍋の蓋ば取ったぎぃ、お鍋にはお汁(つゆ)がいーぱいて。

そいぎ猫や犬(いん)の食べ物(もん)まで、もう、

申し込まんうち出てくっちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、

そいから先ゃ石のお陰、

お爺さんな好きな物(もの)、欲しか物(もの)は何(なーん)でも、

ヒョロヒョロ出て来っちゅうもん。

こぎゃんことが、また殿(とん)さんの耳に入(い)ったて。

そいぎ

殿(とん)さんの今度はねぇ、

「そんないば、蛇から貰(もろ)うたその石ば見せに参れ」て言うた。

そいぎ

お城に石ばねぇ、持ってお爺さんは、もうショボショボと行ったぎね、

門の所で門番どんがねぇ、

「石ば出せ」ち言(ゅ)うて、石ばっかい取い上げて、

「ここで、お前(まい)さんな待っとれぇ」て、言われたて。

そうして、門の外に待っとったぎ夜になっても、

何(なーん)ても返事もしてもらわんしぃ、

門番にもおらんやったて。

一方、殿(とん)さんなねぇ、そのきれーいか石を手に乗せて、

見おんさいたぎ手のしびるっちゅうもんねぇ。

石ば、そいでポトッと落としんさいたぎぃ、

足に石の当たって、歩きえんごと殿(とん)さんのなんさったて。

まあ、そいぎ門んの所に、「こけぇ、おれぇ」て、

言われた爺さんな、そいどんまあーだションボリ、

そけぇおんさったいどん、

ああー、もう何(なん)のこともなしにと思うて、

家(うち)に帰って犬(いぬ)や猫にご馳走どんやらんばあ。

「お前達は元気だからいいなあ」と言って、

そいから無事にお爺さんは、幸せに暮らしんした。

そいばっかいでしょうねぇ。

[四六  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P323)

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