嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

とても正直なお爺さんとお婆さんとが、

小さい村におったてぇ。そこにねぇ、

子供がひとりおったてじゃんもん。

それはねぇ、お母さんがお産して、

じきちぃ(接頭語的な用法)死んだもんで、

お爺ちゃんお婆ちゃんの家(うち)に預けられとんしゃったてぇ。

そいどん、その子は赤ん坊の時から、

右手を硬(かと)うひん(接頭語的な用法)握って、

いっちょん右手ば開いて見せたことなかったちゅうもんねぇ。

そいぎねぇ、そいばほんにお爺さんもお婆さんも心配しとんしゃったて。

ところがねぇ、ある恐ろしゅう寒か冬、

ひとりの六部さんが、

「お家(うち)にどうぞ、

一晩泊めてはくんさんみゃあかねぇ」て言うて、

尋ねて来(き)んしゃったてぇ。

そいぎねぇ、心の良かお婆さんが、

「こぎゃん粗末か家だけど、良(ゆ)しゃあがあっぎぃ、

どうぞ、どうぞ」ち言(ゅ)うて、

泊めんさったてじゃもんねぇ。そいぎねぇ、

「ほんに有難うございます」て言うて、

「良(ゆ)うはなかいどん、ぎゃん寒かけん、

あたってくんさい」ち言(ゅ)うて、

囲炉裏(いるり)に沢山焚物ばくべて、暖(あった)かごとして、

「寒か時は火がいちばんご馳走じゃんもん」て言うて、

あたらせんさったてぇ。

そいぎぃ、奥の方からねぇ、

あの、お爺さんお婆さんが預かった小さな子供が、

「お小便(しっこ)」ち言(ゅ)うて、

起きて来たちゅうもん。そいぎぃ、

「よし、よし」ち言(ゅ)うて、

お婆さんは外にお小便(しっこ)ばさせて、

こうして、囲炉裏ん所にその子供も温(ぬく)もりに来て、

お爺さんのお膝(ひざ)に座ったてぇ。

そいぎぃ、右手を硬う握っとったちゅうもんねぇ。

そいばその六部さんが目(め)ぇかかって、

「あの、手に何(なん)じゃい握っとっとねぇ」て、

言んしゃったぎぃ、お婆さんが、

「ありゃあ、生まれた時から右手ば硬う握って、

一遍でん中ば見せんとですよ。ひん握ってばかいおっ」て、言んさったぎぃ、

「どらー」て言うて、そうして六部さんが、

その子供の右手を取って、

「ムニャムニャムニャ、ムニャムニャムニャ、

アブランケンソバカ、ムニャムニャムニャ」て、

その、何(なん)じゃい知らんどん、お経さんば唱えんさったてじゃんもん。

あったぎねぇ(ソウシタラネ)、右手ばポローッて、

開けたちゅう。(そして何(なに)が出たと思う。)恐ーろしか目もまばいかごと、

ピカーッて光ってさい、

金のお地蔵さんばその子はシッカイ握っとんさったとよう。

手の中から金のお地蔵さんの出たてたいねぇ。

そいばあっきゃ。

〔三三  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P303)

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