嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

お爺さんとお婆さんと暮らしおんさったったてぇ。

あいどん、ほんに困った暮らしじなかったてじゃんもんねぇ。

良か塩梅(んびゃあ)な暮らしをしおんさった。

そいぎぃ、そこに魚(さかな)売いさんの来たいどん、

一遍でんそん人達は魚ば買(き)ゃあさったことのなかあて。

そいぎぃ、魚売いの、

「魚どまよかったろうかあ」ち言(ゅ)うても、

一遍も魚買わんさっけん、

どぎゃん夕ご飯どん食べよらすとやろうかねぇ、

と思うて、ジーッと隠れて見おったことがあったそう。

そいぎねぇ、お爺さんもお婆さんも、

「焼き魚(ざかな)どんが美味(うま)かねぇ」て、

言いおんさったちゅうもん。

「ありゃ、焼き魚(ざかな)どんがあっばいのう。

魚は買わじぃ、焼き魚は食べよらすばいのう」ち言(ゅ)うて、

ジーッと見おったぎぃ、戸棚からお婆さんが、

何(なん)じゃい出してきて、

「こん魚は新しゅうして美味(うま)か、美味か」て言うて、

お婆さんとお爺さんと夕飯ば食べおんさったちゅう。

そいぎぃ、そいば見よった魚屋は、

ヒョッとすっぎぃ、

あの家は魚ば沢山(よんにゅう)買おうとらしたかわからん、

と思うて、そいから四、五日も経ってもうなかばい、

と思うて、あの家ん前に魚ばう捨てたこんな、

こいば拾うて食べらすばいにゃあ、と思うたもんだから、

その翌日、早速その家(うち)の前さい来て、

太ーか声ば出(じ)ゃあて、

「今日(きゅう)は余(あんま)い沢山(よんにゅう)担(にの)うて来たけん、

重(おふ)たかけん、ここできれいか魚ばう捨(す)ちゅう。

一匹、二匹、う捨ちゅう」ち言(ゅ)うて、

その高(たっ)か声ば魚屋さんが出して、

う(接頭語的な用法)捨(す)てられたちゅう。

もう、お爺さんもお婆さんも聞こゆっごと高(たこ)う言うたちゅう。

そうして、その新しか魚ばほい投げといなったて。

そしてまた、ジーッと物陰に隠れて魚売いは見おらしたちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、まずお爺さんがヒョコヒョコって、出て来て、

「こん、飯(めし)盗人(ぬすっと)」ち言(ゅ)うて、

ほたい投げんしゃったて。そいば家ん中で見おった婆さん、

「あぎゃーな魚ばおかずに食うぎぃ、

飯の余(あんま)い美味(うも)うして、

どぎゃんしゅうなかあ。飯ば沢山(よんにゅう)食うもんのう」て言うて、

家ん中で語いおらしたて。

あらー、世の中にゃこがんこともあるかなあ、

あきれた、と思って、魚屋はジーッと見よらしたちゅうもんねぇ。

そいどん、台風のきたぎさあ、

家のつん(接頭語的な用法)燃(む)えた。

「寄付ばやらんばらん。お寺のお堂ば建て直す」ち言(ゅ)うて、

「寄付を貰わんば」ち言(ゅ)うて、

そこん家(うち)に寄付貰(もり)ゃあ行くぎぃ、

もうその部落でもいちばん沢山(よんにゅう)寄付ば、

「そがんないばむぞうげぇ(可愛イソウダ)、

こいで役立ててくんさい」ち言(ゅ)うて、

お金どま寄付しおんさったちゅう。

そのお爺さんとお婆さんは。

そいもんじゃ、部落の人達は一(ひ)人(とい)でん、

このお爺さんを欲

たれてんなんてん、

けちかてん言う者(もん)な一(ひと)人(い)でんおらんじゃったちゅうよ。

そいばあっきゃ。

〔三四  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P304)

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