嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかし。

ある漁師村にさ、

とても年を取った漁師さんがおんしゃったいどん、

そけぇはきれーいか娘さんがおったてねぇ。

今日も、

娘の家に何処(どこ)の者(もん)かわからん

若(わっ)か者(もん)が毎日、

魚(さかな)やら貝ば籠(かご)いっぱい持って来て、

届けてくるっちゅうもん。

そうして、何処ん誰(だれ)ても言わんちゅう。

そいぎぃ、この若か者はねぇ、

よっぽど達者な漁師ばいのう、

て、この漁師さんば褒めそやしよったて。

そいぎぃ、

仕(し)舞(まーり)ゃこらえきらじお爺さんな、

「私(わし)の家(うち)の

聟どんになってはくれんかあ」て言うて、

その帰りに魚ば持って

来るとに頼みんしゃったぎぃ、

もうじき承知して若か者が、

「うん、良か良か。良かばい」て言うて。

そいから、

そこん家の聟さんになったて。

そうして毎日毎日、風の日も雨の降る日も、

海さい行くちゅうもん。

朝早(はよ)う行くちゅう。

そうして、嫁さんになった娘が、

「一時(いっとき)でも

休んで遅く行ったら」ち言(ゅ)うぎぃ、

「いんにゃ。漁場ば人に取らるっぎ

良(ゆ)うなかけん」ち言(ゅ)うて。

そうして、休みなく良う行くて。

そうしてもう、あいも不思議かにゃあ、

と思うて、嫁さんはコッソイある日ついて行たて。

そいぎぃ、

海岸の岩との間をうまいとこ

通い抜けて行たて、

岩にチョコンと腰を下ろしたちゅうぎぃ、

海に釣り糸を垂(た)らしおっちゅうもんねぇ。

そいを見おったぎぃ、

そいまでは人間じゃったいどん、

一時(いっとき)したぎねぇ、

聟どんの大蛸の姿になったちゅうよ。

そいぎぃ、嫁さんなビックイして、

「あらー」て、ちい言んさったて。

そいぎぃ、聟どんなギョロッて、

太か目ば振り向いたてじゃんもん、

ギョロ目で。

そうして、その拍子、

海ん中さいザブーッて、

飛び込んでとうとうそいから先ゃ、

帰って来んしゃらんやったて。

蛸聟さんじゃったて。

そいばあっきゃ。

〔六  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P266)

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