嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

ある所にねぇ、

とっても器量よしの娘さんがおったちゅう。

この娘が大きくなって年頃になったぎもう、

輝くごと美(つく)しか娘じゃっもんじゃ、

若(わっ)か男達のあっちからもこっちからも、

あの娘の顔ば見たしゃ、

やって来おったちゅう。

そのうちねぇ、

もう男どんが移い代わい眺めや来よったいどん。

その男たちの中に、

夜(よ)さいにないしゃあがすっぎぃ、

一晩も欠かさじさ、

この娘に通うて来っ若者がおったてよう。

この若(わっ)か者(もん)もきれいかったてぇ。

顔も艶々して滑らかで柔らかでねぇ、

男前も良かったてぇ。

そいぎぃ、家(うち)ん者もさ、

「この男は、

ほんに家ん娘と似合いの夫婦じゃ」ち言うて、

ジーッと眺めおらしたて。

そいぎねぇ、

この通うて来た男が娘に言うには、

「俺(おい)は、

何時(いつ)ーでん足が汚れて通うて来っけんね、

何時ーでも縁先には

盥(たらい)に水を汲んどってくれぇ」て言うて、

頼みよったて。

そいぎぃ、

娘は夕方になるぎ必ず水をいっぱい入れた

盥を準備して待っとったて。

あったいどん、

だんだん夏も過ぎて秋近(ちこ)うなったて。

そうして、ある日、今

夜は霜の酷かばいていう寒か晩じゃったて。

そいぎぃ、娘がねぇ、

ぎゃーん寒か晩やもん、

足ば汚して来って言んさっけん、

足も冷とうして来んさろう、

と思うて、盥にね、

湯ば沸(わき)ゃあていっぴゃあ

入れて待っとったあて。

そうしたところが、

あの寒か晩からパッタイ

その若(わっ)か男の来んじゃっもん。

そいぎぃ、

庭の隅の茂みの方にその盥ば

準備しとっ所(とこ)を見てみたぎねぇ、

その足を濯(すす)ぐ盥を良(ゆ)う見てみたぎぃ、

太ーか一匹の蛙が浮かんで死んどったてぇ。

そいぎさ、

「この濯ぎの水をねぇ、

熱(あつ)う沸(わき)ゃあて出すぎ

魔性物は本性を現わす」て言うて、

年寄い達からその娘も聞いたことのあらしたもんで、

家(うち)に、私に通うて来よったた、

あがん柔らか肌をしとったとは、

蛙じゃったとじゃろうかあ。

蛙が人間に化けて通うて来よったじゃろうかあ。

熱か湯で、ちい煮えて死んだとばいにゃあ、

と思うて、

この娘さんは悲しんだて。

そいばあっきゃ。

〔五  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P266)

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