嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

  そいぎね、蛙の女房ば話します。

むかーしむかし。

もうとても長者さんのおったち。

そうして男の子が二人おった。

そうして二人とも、もう三十も過ぎたとこれぇ、

なかーなか嫁さんば取らん、

見つけも得ん。そいぎぃ、

「お前達は何時(いつ)まで親の世話になっとかあ。

もう、我が好いた女(おなご)のおっぎぃ、

何時―でん連れて来て良か。

何時まで経って連れて来(こ)ん。

もう、長男は三十五歳にもなっとっ。

そいぎ長者さんは思い切って言う。

「お前達は嫁さんば探しえんないば、

私(わし)が被った帽子ばバーッて投げるから、

そいば落ちた所の娘ば、

必ず嫁に取ってくれ。

投ぐっぞう」ち言(ゅ)うて、

ポーンと投げたら、

落ちた所が味噌問屋の屋根の上じゃったて。

そうして味噌問屋には、

そけぇ五人も娘のおった。そうして、

「庄屋さんの家(うち)から嫁さんに貰わるっとないば、

もうどの子でん、気に入ったとば取ってください。

有難いこと」って言う。そうして、

そこのいちばん息子が

気に入ったとを嫁さんに取っとった。

そいぎまあーだ次男も嫁さんば貰わんば。

そいぎぃ、

「お前も、そいぎぃ、

私(わし)が帽子ば投げた所から嫁さんば取っかあ」て、

長者さんがプーッて遠か所まで勢い良く投げた。

ところがね、原っぱの中の沼にいったて。

夏になっぎぃ、そけぇは蛙がいっぱいおって、

もうギャアギャアギャア、ガアガアガア、

やかましかごと夏の間、蛙が。

冬の間は、もう沼に潜ってしもうて、一匹も姿が見えんて。

「ぎゃん、沼に帽子の落ちて、

沼に誰(だーい)もおらんて。

こっからは嫁御おらん」て言うことで、

「そいぎぃ、まいちょ投げなおし」ち言う(ゅ)て、

拾うてきて、またポーッと、

また同(おんな)じ沼に。

「あら、二遍もあつこから嫁ば取れてばい。

あいどん、あつけは小(こま)―か小屋の、

沼の側にあっけん、あつこでお前は暮らせぇ」と、

長者さんの息子に言うた。

「はい」ち言(ゅ)うて、

二番目はほんに正直な男で良か子じゃったて。

そうして、あいどん小―か家(え)ばいっちょ貰うて、

そうして見っぎぃ、草ボウボウの荒れて、

「困ったにゃあ」て。

「あいどん、ここでわが貰うたけん、

ここで畑ないどん作ろう」ち、

セッセセッセと働いて、もう十日も働く。

ところが、朝はチャーンとご飯ば。

そうして一日働いてきて汗かくも、

作業着なんかも立派に洗濯して干してたたんであって。

そうして部屋もきれいにしとって。

誰(だーい)もおらん。

自分がひとりで嫁さんも、

こっからおらん、沼じゃっとこれぇ。

ところが、こーして見たぎぃ、

部屋の隅の方に、蛙がチョコーンて鳴きもせんで座っとって。

「蛙どん、誰が夜は美味(うま)かご馳走ばして食べさせ、

誰が掃除はしたい、洗濯をしたい、

ご馳走ば作ってくいたいすっじゃろうかあ、

見てみゅう」ち言うて、

今日は仕事せんでジーッと部屋の隙間から見おったて。

あったぎねぇ、部屋の隅の方におった蛙がもう、

もう誰もおらんごとなったぎぃ、

急いで何(なん)か胸の辺(にき)ば、

こうこうしよっと、パーッと蛙の衣を脱いで、

もうきれいかきれいか、もう髪はフサフサとして、

顔は白うして、目はパッチリとしてもう、

きれーいかもう、

仏さんのごときれいか女(おんな)の現われて、

そうしてパタパタ、パタパタもう叩きを掛けて、

そうしてすぐ、

また雑巾を持って掃除をして立派になったて。

そしてまた、お昼ご飯の支度だというて、

一生懸命コトコト、コトコト台所でお御馳走をした。

そいぎぃ、

そこで見おったもう

きれいか女(おなご)であんもんじゃけん、抱き着いて、

「もう、蛙の着物は着てくるんな。

このままいてくれ」ちて、

取りすがってね、その男は泣きついたて。

ところが、そいから先ちゅうもんな、

二人は仲良く暮らしおったぎぃ、

すぐ側に道があったぎぃ、

村の者が道ば通っ時ゃあもう、

こうして覗いて。我が家内が立派かもんじゃい、

もう一時(いっとき)立ち止まって、

表でその家内ば見せたて。

そうして、じき噂になったち。

「恐ろしか、あぎゃんきれいか者はおらん」て。

そうして、

「お茶どん飲んで行きんさい」て、

皆にお茶も振る舞う。

そやあー心の優しか者(もん)な、

今時分見たこともなか」て。

そいがねぇ、本家に聞こえたて。

そいぎ本家に味噌屋から嫁に来たとが、

第一我がブーのごと、豚の肥えとんもんじゃい、

自分はこんな身なりして、

あてつけがましかごと村の者(もん)が、

「あつこの、

『沼の嫁御の見えた』ち言(ゅ)うて、

嫁御のきれいか」ち、言うわけ。

「そいぎ儀難題ばかけて、

あいばやっつけよう」て言うて、

その題がねぇ、あの、

「一日で百本分、

通りに自分の家の周りにズーッと桜の木ば植えて、

一晩で花が立派に咲いて、

そこで花見を村人ば、沢山の村人ば呼んで、

花見の宴ばすっ」て。

「そいぎぃ、ご馳走を作ってくれ。

お前とこの嫁さんな、ご馳走作いの上手てやろうがあ。

その百本の桜の木を植えろ。

一晩で花が満開すっ。

そして村人ば呼ぶから、

ご馳走ば村人に、面々行き渡るように」

そいぎねぇ、もう、

そやん難題はつけなされたもんじゃい、

もう、仕事すっ気もなしぃ、

次男はションボリして部屋に座っとったて。そいぎぃ、

「あなた、何かご心配事があるですかあ」て、

言んさったら、

「うーん。実は、本家から難題が持ちかかって、

あの、桜の木ば百本も植えろ。

そぎゃんことのできゅうかあ。

どうせ一晩で、そりゃ難しい。僕は辛いよ。

とてもできんことば、難題をかけられた」

「何(なん)で、そんなことば心配はすっですかあ。

心配せんで私に任せなさい」て。

(あの、蛙には、田舎はビッキーて言う。

爺さんをジイて言うでしょう。)

「そいぎぃ、あの、私のお爺さんに頼んでやると、

すーぐしますよ。

もう手品のごと何でもできるから」ち言うて、

「明日になったら見てみなさい、できる」

「そいでも村人に、

花見の宴のご馳走も作らんばらん」

「ああ、そいも心配はいらん。

私にお母さんがいるから、

お母さんがお御馳走を作ってくれます、

心配いりません。

心配せんで今夜はグッスリお休みなさい」て言うて、

明くる日になったぎぃ、そいぎねぇ、その蛙嫁さんがねぇ、

「ビッキー爺」て、呼んだらねぇ、

小(こま)ーか箱のコロコロコローっと、

転うでその小屋に来たて。

「何でしょう」て、中から声がして、

その蛙嫁さんが蓋(ふた)ば開けたら、

爺さんがトットと爺さんが出て来て、

ニコニコ笑って、

「あの、お爺ちゃん、

百本の桜の木を本家に植えてくるっ」ち言(ゅ)うたぎぃ、。

「よし、よし。心配いらんよ」て言うて。

「そうして、今夜、花を咲かせるの」

「任せときー」て言うて、

ほんなこてそがん。

そうして、そのお爺さんは杖を突いてね、

その本家に行たて。

そうして桜を、そして今度はお御馳走を作る段になった。

そいぎもう、その蛙嫁がタンタンタンて三つ手を叩いて、

「お母さん、お頼みします。

お御馳走を百人前作って」て、言ったら、

もうすぐ小さな小人のごたっとの、

その本家にゾロゾロ、ゾロゾロお御馳走ば運んだて。

そいぎねぇ、

「まあ、呼びもせんのに、

ぎゃん年寄った爺さんも杖突いてやって来て、

そうして一晩で花も咲かせて、

こりゃ人間業(わざ)じゃなかあ。

もう不思議かあ、ぎゃん魔物のごたっとはもう、

他所(よそ)に失せろ」て言うてね、

その長男が、その爺さんの杖に触って。

あったぎぃ、その杖ば触っぎぃ、

猪になって。そうして、その牙の生えて、

毛の生えて、長男ば猪になって、

もう山さい逃げてさりいてしもうたあ。

「あらー、私の夫は猪ににゃあて」ち言(ゅ)うて、

また爺さんの杖ば握って、

揺すったぎ今度は、猫に、

その嫁さんは、猫になって、

ニャンニャンちゅう。

そいで自分の家に。

そうして、そいから先は、

「もう、お前達が、

もう長男坊は心も悪かった。

私どんま、あの子と一緒に暮らすのは、

大変じゃった」て、長者さんは言んさって。

「お前達は、ほんに不思議な力ば持ってるど

優しい」て言うて、

そいから先ゃあ、結構に暮らしたていう。

そいばっきゃあ。

〔七  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P267)

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