嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

正体のわからんどん、

化け物のほんにおったとよ。

そいぎぃ、ある所にはねぇ、

手長足とば差し出(じ)ゃあて水ばひん(接頭語的な用法)

飲んでしまうちゅうもん。

長足ちゅうぎねぇ、もう稲のできても、

村いっぴゃあでん踏んつけて歩(あゆ)うで歩(さる)くぎぃ、

踏んつけられてしもうて、

何(なん)でんきゃあ(接頭語的な用法)

倒れて困った化け物の怪物のおったて。

そいぎぃ、

「その怪物ば退治せんことにゃ困ったもんだなあ。

この村はつぶるっ」ち言(ゅ)うて、

村ん者な全部(しっきゃ)あ悩みの種じゃったて。

「そいぎぃ、こぎゃん怪物の退治は和尚さんばし頼まじにゃあ」て言うて、

偉い和尚さんにお頼みすっごとなったて。

そいぎぃ、和尚さんのやって来てねぇ、

「頼まれたからには、皆ば助けにゃならん」て、

言うことで、長(なご)うお経さんどん読んでから、

「私(わし)が、その怪物とやらに会いに行こう」て、

言うごとなんしゃったてじゃんもんねぇ。

そいぎねぇ、その怪物がじき出て来たて。

「ああ、和尚がノコノコやって来た。

私どめ適(かな)う者(もん)があんもんかあ」て言うて、

やって来たて。

そいぎぃ、和尚さんの言んしゃっことはねぇ、

「お前(まい)達は何でもできないことはない」て。

「蜘蛛(くも)んごと、

あの長(なん)か手で手繰い寄せて、

雨も降らすっし、川の水は濁っごと飲む」て。

「村の作り物はいっぴゃあでん踏んつぶして歩(さる)く」て。

「そぎゃん何(なん)でんでけんごとなかごとでくっお前達

怪物じゃろうばってん、

いっちょぐらいはしわえんとのあろうだーい」て、

和尚さんの聞きんしゃったら、

「いやあ、でけんちゅうもんなない」て。

「私(わし)達のでけんていうことの、

何(ない)いっちょでんなか」言うて、

威張っちゅうもんね。

あいたあ、困ったねぇ、

て思いんさったけれども、

「そんないばさ」ち言(ゅ)うて、

袖ん中、小(こま)ーか、

小指ん先よいか小ーか壷ば出してねぇ、

「この壷ん中(なき)ゃあ、

お前(まい)達そがん太か手やら、

長(なん)か足やら、そぎゃん太か足やら持っといどん、

こぎゃん小ーか壷ん中ゃあ、

とても入(は)いゆうみゃあだあ」て、

こう問題ば出しんしゃったて。

そいぎぃ、二人どめ怪物が思(おめ)ぇよったちゅうもんねぇ。

「いんにゃあ、

私(あたい)どんはただの人間じゃなかけん、

小(こも)うなろうでしゃが思うぎぃ、

そぎゃんとに入っとぐりゃあ、

わけなか、わけなか。

あんさんの見おっところで入(い)ってみゅう」ち言(ゅ)うて、

二人(ふちゃい)連れ揃うて

我れ先にとその小(こま)ーか壷ん中(なき)ゃあ、

ヒョロヒョロヒョロて、

ほんなこて入(ひ)ゃあたてぇ。

「わあ、君達ゃ素晴らしいなあ」ち言(ゅ)うて、

褒めたぎぃ、壷ん中で得意満面じゃったて。

そいぎねぇ、衣の袖ばつん切って、

壷の出口ばしっかい和尚さんの括(くび)んしゃったて。

そうして、

こりゃあ泥ん中(なき)ゃあ埋めんばと思うて、

村ん者ば集めて深(ふこ)う土ば掘って、

そうして埋めた上からは、

「なるだけ太か石ば持って来い」て、

言わせて、太か石ば持って載せんさったて。

そいから先ゃねぇ、

手長も足長ちゅう怪物は何(なーん)も姿見せん。

その村も困らじねぇ、作い

物でん上手にできて、

平和な村にそいから先ゃなったてよ。

そいばあっきゃ。

〔本格新五 鬼壷(AT三三一、一五五)類話〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P246)

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