嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

良いお婆さんがおんしゃったてぇ。

そいぎねぇ、

向こん方から子雀のチュンチュンちゅうて、飛びえじパタパタパタて、

庭先に落ちて来たちゅうもん。

「あらっ。可愛そうにこの雀は、羽のつけ根んところの傷おうとっ。

何【なん】からじゃい、こりゃあやられたとばーい」て、言うてねぇ、

その婆さんは優しゅうして親切ないいお婆さんじゃったもんじゃっけんねぇ、

もうその雀の傷のところに薬【くすい】どんつけてやって。

そうして、

籠【かご】どん手ごろとば買【こ】うて来て、

入れて面倒ばみおんしゃったちゅう。

そいぎねぇ、

雀はもう、日に日に元気になったて。

そいで可愛か声で、チュンチュン、チュンチュンちゅうて、

籠の中ば飛び回いよったて。

そいからねぇ、

四、五日経ったある日ねぇ、

親雀のさ、ほんな軒端に来て、チュッチュッ、チュッチュッて、鳴いたて。

そいぎぃ、その子雀は我が親じゃったもんじゃい、

チュンチュン、チュンチュンちゅうて、

可愛か声でおんもんじゃい、

お婆さんの、

「ありゃあ確か、親雀の迎えに来とっじゃろう」て言うて。

そいぎぃ、

「あの、離【はに】ゃあてやらんば、親は誰【だい】でん恋しかもんなあ」

て言うて、

「ほら、行け」て言うて、そのねぇ、籠から出してやったぎぃ、

親雀ん所【とけ】ぇチュッチュ寄ってその、飛んで行た。

「気をつけて暮らせよ。無事におれよ」て言うて、

お婆さんな戸口に立って

何時【いつ】まっでん飛んで行ったお空ば眺めおんしゃったて。

あったぎねぇ、

あくる日にさ、親雀のチュンチュン、チュンチュンちゅうて、

また来たちゅうもん。

そいぎぃ、

何【なん】やろうかなあ、親雀の一人【ひとい】で来たなあ、

と思うて、

お婆さんがこうして、ヨチヨチと腰の曲ったとば伸ばして出てみたぎねぇ。

そいぎねぇ、

ポトッポトッて、二つばかいねぇ、

何【なん】じゃい白ーか種物【たねもん】ば落としてやんもんねぇ。

あらー、雀が種物ば持って来てくいたばーい、と思うてねぇ、

有難いことじゃあ、て思うて、

その種物ば、白かとば蒔きんさったて。

そうして、

朝も晩も、もう水どんかけたい、肥しどんかけたいしてね、

可愛がいよんしゃったぎぃ、

そいがもう、ヒョロヒョロと、見る間【ま】にもう十日も経たん内、

二度生【な】ったて。

そいが、瓢箪【ひょうたん】のブラブラ生ったちゅうもんねぇ。

そいぎもう、婆さんの、

「あらー、雀のくれたとは、瓢箪やったとばいなあ。

瓢箪の種やったあ」て言うて、

お婆さんはねぇ、もう白―うに生ったとから取って来てさ。

そうして、そいばもう乾かして、瓢箪ば作んしゃったて。

軒に乾かすごと下げとんしゃったて。

そうしてもう、

大抵【たいちゃ】乾きどませんやったかなあ、と思うてねぇ。

そいが前よいか太うなっとっちゅうもん。

「ありゃ、こりゃあ軽うなっとろうだあ、と思うとったぎぃ、

いっだん太うなっとったあ」て言うて、

お婆さんがねぇ、その瓢箪ば、

「なしやろうかあ。水んうち入【ひゃ】あたとばい」ち言【ゅ】うて、

逆さにしてポロポロて、振んさったて。

あったところが、瓢箪の中からお米のさ、ポロポロ、ポロポロ、

真っ白かお米の出てくってじゃっもん。

ありゃあ、こりゃあ、軒先に蒔【み】ゃあた瓢箪のやんして、

米の出てくっごといちなったあ、と思うて、

その米ば炊いてご飯ば食べんしゃったぎぃ、

とても美味【おい】しかお米やったて。

そいぎぃ、もう入っとんみゃあだーい、と思うて、

あくる日もご飯炊くとに振ってみんしゃったぎぃ、

また太うなって入っとっちゅうもんねぇ。

お米のそいで、お米は買わんで良し、

お婆さんも知らん顔にしとっんさったいどん、

美味しかお米でフックラーっとなってね、

「お婆さんや、あんたん所の瓢箪からお米の出【ず】っち、ほんなことや」て、

隣【とない】のねぇ、欲張り婆さんがさ、尋ねて来て、

「私【わし】にも瓢箪ば一つくれんやあ」て、言んしゃったけん、

「やあ、沢山生っちょる、生っちょる。さあ、持って行きなされ」て言うて、

欲もなし親切なお婆さんだけ、まあーだ生っとっ瓢箪ばくんしゃったて。

そいぎねぇ、隣の欲張いのお婆さんな、

「早【はよ】う、お米になれや」て、

沢山【どっさい】太かとからちぎって来【き】んさいたちゅうもん。

そいぎぃ、

軒端にこうして、早【はよ】う、お米の出【ず】っぎ良かけどなあ、と思うて、

見おんさって、もう良かろうだーい、と思うて、

もう二日目には取って来てねぇ。

そうして、

あの瓢箪の重【おふ】かと、

「ああ、これ、しめしめ。沢山【よんにゅう】入っとるばい」て、言うてから、

逆さにしんさったとことがねぇ、

どす黒か汁の出てきたて。

そいぎぃ、

こいが、あがんと、こいも不老長寿の薬【くすい】どんじゃなかろうかにゃあ。

雀のくれたとじゃっけん。

隣の婆ちゃんも良か目おうたけん、

私【わし】にも良か目あわすとったばーい、と思うてねぇ。

そいで、ブルンブルン、ブルンブルンとして、

もう茶碗についでグーッと、飲みんしゃったて。

ところが、それが苦【にが】さ苦さ、

どす黒かったとの苦【にが】かったちゅう。

そうしてねぇ、あくる日から色青くなってねぇ、

一週間ぐりゃあで欲深か婆ちゃんなちい死にんしゃったあ、ていう話。

そいぎぃ、良か婆ちゃんは欲深か婆ちゃん所へ、

「気の毒じゃったのう。

私【わし】が瓢箪ばくれたばっかいにちい死んでぇ」て言うて、

悔やみに行きんしゃったいどん、皆の者【もん】がねぇ、

「あんさんは良か心じゃったいどん、

このお婆ちゃんちゅうぎもう、人の好かんことばっかい言うて、

大抵【たいちゃ】このお婆ちゃんな、もう私らは難儀させて困いよったあ」

て、言う者ばっかいやったて。

「そいけん、雀はあんさんにはねぇ、

チャーンとお礼に良かとばくいたとですよう。

あなた、そぎゃん嘆かんでも良かあ」て言うて、

皆から慰められてねぇ、

その後は幸せにいい婆ちゃんは暮らしたということです。

そいばあっかい。

[一九二 腰折雀【AT五五四、cf.AT四八〇]

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P155)

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