嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

お爺さんとお婆さんが暮らしおったてぇ。

お爺さんは毎日毎日、山へ柴刈りに行きよらしたて。

そうして、山にまた柴を刈って帰り道んこと、

もうお爺さんがひょっと道端ば見るんしゃったぎぃ、

羽ば傷【いた】めた小雀の飛べないでねぇ、

おふくじゅうどったてぇ【シャガコンデイタ】。

「ありゃあ、可愛そうに傷は酷かにゃあ」ち言【ゅ】うて、

お爺さんはねぇ、飛べない小雀ば抱いて我が家さい連れて帰んしゃったて。

そうして、丁寧に包帯をしてやったいして、鳥籠に飼っとんさったあて。

そいぎぃ、その小雀は日に日に元気になってねぇ。

そうして、チュンチュンて、いうごとなったてぇ。

そいぎぃ、お爺さんのこの雀に「おチュン」て、

いう名前までつけんさったちゅう。

そうして、毎日お爺さんな、「おチュン」ち言【ゅ】うて、

餌どん、芋どん、柔らかくしたのをやったいして可愛いがいよんしゃったぎぃ、

その小雀のおチュンは日々に元気になったて。

そうして、お爺さんは相変わらず

毎日山さい柴刈りに行きよんしゃったちゅうもんね。

あったぎぃ、

天気の良か日にさ、お婆さんが洗濯して糊張りを近くでしおんしゃったぎぃ、

雀のおチュンが籠からひっと出てさ、

お婆さんの作っとった糊【のい】ばもう、

ペロペロやって舐めてしもうたちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、お婆さんな、

「こりゃあ、お前【まい】がひん舐めて」て言うて、

小雀はまあーだ思うごと飛びえんじゃったけん、

じきひっ捕まえられて、

そうして婆さんは、

「お前が、この舌でひん舐めてぇ」て言うて、雀の舌ばチョン切ってしまわしたて。

あったぎぃ、おチュンは鳴きながらさ、

竹藪【やぶ】ん中にさにゃほんに逃げて行きえんとば、

パタパタパタパタしながら逃げて帰ったちゅうよう。

夕方、お爺さんはねぇ、山からまたおチュウに会おうだあ、と思うて、

帰って来たぎぃ、おチュンはおらんちゅうもん。

籠【かご】は空っぽになっとったちゅう。

鳥【とい】籠は。あったぎぃ、お婆さんに聞いたぎねぇ、

「ぎゃんして、折角糊【のり】ばこさえとったぎぃ、

おチュンがひん舐めてしもうたあ。

歯痒【はがゆ】うしてたまらんじゃったけん、舌ばおし切ったあ」て言うて、

言んしゃっもんじゃい、

朝早【はよ】うから起きて、お爺さんはおチュン捜しに出かけんさった。

「これ、これ、おチュンよう。

おチュンは何処【どこ】だあ。何処だあ」ち言【ゅ】うて、

笹藪のあっ所ばズウッと尋ねて行きんしゃったぎねぇ、

笹藪の奥【おーく】の方に小【こま】ーか藁屋根の家のあったて。

そこはねぇ、雀の宿やったてぇ。

「ありゃあ、あすこは雀のお宿ばーい」ち言【ゅ】うて、

お爺さんが来【き】んしゃったぎぃ、

そこには沢山【よんにゅう】雀がおってさ、

「お爺さん、ようこそ。おチュンが大変お世話になりました」て、

皆が言うてねぇ、お爺さんば迎えたちゅうよう。

そうして、

「さあ、お爺さん、ユックリしていってください」て言うて、

丁寧にほとめいて【忠義立テシテ】てねぇ、お酒を勧めたい、

お御馳走もいっぱい、

「さあ、食べんさい。さあ、食べんさい」て、皆でほとめいたちゅう。

お爺さんはねぇ、

「雀のお宿で暮らしとったかあ」ち言【ゅ】うて、

「私ゃ、ここにおんなら安心して帰れるばーい」て、言んしゃったぎねぇ、

「もう、帰らんばあ。家【うち】のお婆さんも待っとろうけん。

ここにおっぎ安心していいなあ。

もうお暇【いとま】すっよう」て、言んしゃったぎねぇ、

奥の方さい行たてさ、太【ふと】ーか葛籠【つづら】と小【こま】ーか葛籠と

二つ、おチュンが持って来てさ、

「お爺さん、好きな方を持って行ってください。こい、おみやげです」て、

言うたて。

そいぎぃ、お爺さんな欲のなかもんじゃい、

「太【ふと】かと重かけん、小【こま】かとで良か良か」ち言【ゅ】うて、

小ーか葛籠ば持って帰んしゃんたて。

そいぎ家さい、

「ただいまあ」ち言【ゅ】うて、帰って、

「おチュンは元気になっていたよ、お婆さん」ち言【ゅ】うて、

話さしたて。

そうして、みやげに貰うて来た小ーか葛籠ば開けてみたぎねぇ、

もう中【なき】ゃあは目も覚むっごと金銀珊瑚【さんご】、

そりゃあザクザクやって出てきたちゅう。

お爺さんも、お婆さんも、もうビックイして喜んでねぇ。

もう、そいから二、三日もしたぎぃ、今度はお婆さんがねぇ、

「そりゃあ、太か葛籠と小か葛籠とあったいない、

太ーかとば貰うて来【こ】んけん。

今度【こんだ】あ、私【わし】が行ってみゅう。

雀のお宿は、お爺さんじきわかったねぇ」て、聞いたら、

お爺さんは、

「すぐわかったよう」て、言んしゃったてぇ。

そいぎぃ、お婆さんは、

「太ーか葛籠ば貰【もろ】うて来【く】っ」ち言【ゅ】うて、

笹山目かけて出かけんしゃったて。そうして、

「雀のお宿は、何処【どこ】じゃろうかあ。

雀は、何処【どけ】ぇおろうかあ」ち言【ゅ】うて、

高【たこ】う叫【おら】びながら行ったいどん、

遠か遠か、もう大抵【たいちゃ】足ゃ草臥れて棒になっごと、

今まで行たいどん見当たらんちゅう。

そこん辺【たい】いっぴゃあ、遠うかったてぇ。

そうして、日が暮るっちゅう自分になってから、

ようようして雀のお宿に着【ち】いたちゅう。

そうして、雀どんが出て来て、そのじきねぇ、

「もう夜【よ】さいさにゃぞう。早【はよ】う帰らんばらんけん、

みやげの葛籠ばくいろう」て、

お婆さんは高【たこ】う催促しんしゃったぎぃ、

お爺さんの時と同【おん】なし太ーか葛籠と、小ーか葛籠と

奥の方から雀どんが持って来たて。

そいぎぃ、お婆さんは欲の深かもんじゃっけん、

「その太ーか葛籠を貰うよ」て言うて、太か葛籠ば背負【かる】うたぎぃ、

重【おふ】たさ重たさ、ヨロヨロして立ち上がって、

ヨチヨチ、ヨチヨチして、歩いて帰おったて。

あったいどん、もう疲れて足が動かんごとなったもんじゃい、

その中を見てみとうしてたまらんもんじゃい、

まあーだ家【うち】さい帰っ途中じゃったいどん、

この葛籠を開けてみゅう。

どがんばっかい沢山【よんにゅう】宝物の入っとるかわからーん、と思うて、

道に下【おれ】れぇてさ、帰る途中に葛籠ば開けんさいたちゅう。

あったぎねぇ、

葛籠ん中から骸骨の出てきたい、蛇のニョロニョロやって出てきて、

お婆さんば追いかけて、

とうとうお婆さんは食い殺されてしまいんしゃったてぇ。

そいばあっきゃ。

[一九一 舌切り雀【AT四八〇】]

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P153)

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