武雄市西川登神六 井出安次さん(明37生)

 むかし、あるお寺に、

とてもお酒と餅が好きな和尚さんが

おられたそうです。

そのお寺には、小僧さんが二人おったそうです。

その小僧さんが、

「おい、何とかして、和尚さんば騙みゃぁて、

酒ば一杯【いっぴゃぁ】、

餅ば一個【いっちょ】なっとん(だけでも)、

食おうじゃあんみゃぁか(食うてみよう)」

ちゅうて、二人で相談したそうです。

そうして、

「どがんすっぎよかろうかにゃぁ

(どのようにしたらいいだろうか)」

て一人の小僧さんが言うたら、

「よし、今から名前ば変ゆい(名前を変えよう)。

いっときばかいでんよかけん(少しの間でいいから)

名前ば変ゆい」

ちゅうて、もう一人の小僧さんが言うたそうです。

それで、

「どがん名前にすっか」て聞いたら、

「わりゃぁ(お前は)、酒好いとっけん

(酒を好きだから)、『エエカン』て付けろ。

和尚さんの、『ええ燗、ええ燗』て言うぎ、

『はい』ち言うて行くぎ、必ず飲まるっけん」

て言うそうです。

それから、

「お前は、どがんすっかい」て言うたら、

「俺【おりゃ】ぁ、餅が好きけん、

『プックウ』て名前ば付くっ。

そうして、和尚さんが、『膨っくう(膨れた)、

膨っくう(膨れた)』て言うた時ぁ、

俺【おい】が出ていくけん」て言うたそうです。

そうして、和尚さんに言って

名前を変えてもらったわけです。

そうしたら、ある時、和尚さんが、

供養に行って帰ってきて、

丁度いい具合に、自分一人で、

酒をちびりちびり飲んでいたそうです。

むかしは、ユネ瓶(びん)というのに酒を入れて

燗(かん)をつけて飲みよったそうです。

そうしていたら、燗の丁度いい具合に暖まったので、

「ええ燗、ええ燗」と言ったそうです。

そうしたら、「はーい」て言うて、

一人の小僧さんが出て行かれたそうです。

それで、和尚さんが、

「なし、わりゃぁ(お前は)来たか。

俺【おりゃ】ぁ、今日はまーだ呼びもしとらんぞ」

て言いんさったそうです。

そうしたら、

「今、和尚さんが、『エエカン、エエカン』

て言うたたいのまい」て、小僧さん言うので、

「俺【おりゃ】ぁ、酒の燗のついたけん、

『ええ燗、ええ燗』て言うただけたい」

て言いなったら、小僧さんが、

「私【あたし】ぁ、名前ば変えて、

『エエカン』て付けたけん、

『エエカン』て呼びござったと思うて、来た」

て言いなったので、

「そうか、そうやったな。そいぎぃ、

名付け祝に一杯、お前にやっ」

て言われたそうです。

それから、その明けの日に、

和尚さんが、自分一人で餅を焼いて

食べていたそうです。

昔は、供養には必ず餅が上がっていたので、

その餅を焼いて食べていたそうです。

そうしていたら、いい具合に焼けたら、

プーっという音がするでしょうが、それで、

「膨っくう【膨れた】、膨っくう」て、

和尚さんが言うたそうです。

そいぎぃ、もう一人の小僧が、「はーい」

て言うて来たので、和尚さんが、

「あら、お前も何しぎゃぁ【何をしに】来たかぁ。

まぁだ呼んどらんぞう」て言うたそうです。

そうしたら、小僧さんな、「いんにゃぁ【いいや】、

今、和尚さんが『ぷっくう、ぷっくう』

ていいござった(言われた)けん、

俺(おりゃ)ぁ来たです。私【わし】も『ぷっくう』

て名前ば変えたけん、そいけん、何の用事【ゆうじ】

のあっかと思うて、飛んで来たです」

て言いなったので、

「あぁ、そうか。お前も、名前ば変えたたいなぁ。

そいじゃぁ、名付け祝に、いっちょう【一つ】、

餅ばやろうじゃぁ」

て言うて、小僧さんにも餅をやられたそうです。

 

(出典 佐賀県文化財調査報告書 第71集「~矢筈・神六の民俗~」p125)

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