武雄市西川登神六 井出安次さん(明37生)

 和尚さんがなたぁ、酒飲みじゃったてなたぁ

酒は、本当に【ほんに】すきじゃったちゅう。

そいから、もういっちょは、

餅も本当に好きじゃったちゅう。

そいぎぃ、小僧さんが二人おって、相談して、

「おい、何とか、和尚さんば騙して【だみゃぁ】て、

いっちょ酒一杯【いっぴゃぁ】と

餅ば一個【いっちょ】なっとん(だけでも)、

食おうじゃあんみゃぁか(食うてみよう)」

ち言うて、二人で相談しとるわけですねぇ。

「どがんすっぎよかろうかにゃぁ」

「よし、今から名前ば変ゆい(変えよう)。

いっときばかいでんよかけん、名前ば変ゆい」

ち言うて。

「どがん名前ば」

「わりゃぁ(おまえは)、あがんと、

酒好いとっけん、『ええかん』と付けろ。

和尚さんの、『ええ燗、ええ燗』て言うぎ、

『はい』ち言うて行くぎ、必ず飲まるっけん」

て言うたふうでですよ、ええかん、て付けた。

そいぎぃ、

「お前は、どがんすっかい」

「俺【おりゃ】ぁ、餅が好きけん、

『プックウ』て名前ば付くっ。

そうして、和尚さんが、『膨っくう、膨っくう』

て言うた時ぁ、俺【おい】が出ていくけん」

て言うごたっふうで、二人で話し合って、

名前ば付けとったたわけですねぇ。

そうしたら、まぁ、和尚さんが、

よかあんびゃぁに(いい具合に)供養に行たてぇ、

帰ってきてから、我が一人、ちびりちびり、

酒ば飲みおったとでしょう。

そうして、昔は、うまい具合に、

ゆね瓶ちゅうてあいよったでしょうが、

あれに入れて、そうして飲みよったもんじゃっけん、

燗のよかんばついとんもんじゃい、

「ええ燗、ええ燗」て言うわけですねぇ。

そいぎぃ、

「はーい」て言うて、行かしたちゅうもん。

「なし、わりゃぁ(お前は)来たか。

俺【おりゃ】ぁ、今日はまーだ呼びもしとらんぞ」

「今、和尚さんが、『エエカン、エエカン』

て言うたたいのまい(言ったじゃないですか)」、

「俺【おりゃ】ぁ、酒の燗のついたけん、

『ええ燗、ええ燗』て言うたたい」

て言いなったら、小僧さんが、

「私【あかし】ぁ、名前ば変えて、

『エエカン』て付けたけん、

『エエカン』て呼びござったと思うて、来た」

「そうか、そうやったな。

そいぎぃ、名付け祝に1杯、お前にやっ」

て、言わしたのまぃ。

そいからまた、明けん日じゃいろう、

供養に必ず餅の必ずあがいよったもんなたぁ。

そいば、我が一人で小僧にはいっちょん食わせんで、

焼いて食いよらしたてぇ。

そいぎぃ、こう焼きよらしたぎぃ、

よかあんびゃぁに焼けたのて。

「フックウ、フックウ」て、焼くっと、

ポーッと言うでしょうが。そいで、

よーし、焼けたと思うて、

「フックウ、フックウ」て言うて、

和尚さんが言うたちゅうのまい。

そいぎ、また、小僧が、

「はーい」て言うて行たて。

「あら、お前も何しぎゃぁ来たかぁ。

まぁだ呼んどらんぞう」

「いんにゃぁ(いいや)、今、和尚さんが

『ぷっくう、ぷっくう』ていいござった

(言われた)けん、俺【おりゃ】ぁ来たです。

わし(私)も『ぷっくう』て名前ば変えたけん、

そいけん、何の用事【ゆうじ】のあっかと思うて、

飛んで来たです」

「あぁ、そうか。お前も、名前ば変えたない。

そいじゃぁ、名付け祝に、いっちょう、

餅ばやろうじゃぁ」て言うて、食わしたちゅうたい。

(出典 佐賀県文化財調査報告書 第71集「~矢筈・神六の民俗~」p125)

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