東津 石井良一さん(明35生)

 あるところに、その、お爺さんとお婆さんと

隣合わせにおいござったと。

ところが、お爺さんは非常に正直で、

お婆さんは、ちょっと欲張りやったていうわけですね。

ところがある日、お爺さんが袋を担いで山に椎の実を拾いに。

ところが、(柏とは違うもんね。椎は食べらるもんね。)

椎拾いに行ったところが、なかなか都合いうあえとらん。

そいで一日拾うたけども、とうとうその、拾い出さなかった。

そいで、このまま帰ってもなんじゃから、

何処じゃい泊まっところのあいはせんじゃろうか、

こう思って、その、捜しよった。

ところがその、お観音様みたいのがあったわけですね、

で、そこで、行って両手を合わせて膝をついて、

「お観音さん、お観音さん。どうぞひとつ、私ばこう言う風で、

椎の実を拾いに来たが、とうとう拾い出さなかった。

こうして帰るのもなんじゃから、どうぞひとつ一晩泊めて下さい」と、

非常にお観音様におすがりをしたて。

ところが、そのお観音様が、

「そりゃあ、泊むっとは易かこと。しかしながらのう、

ここは鬼の出て来(く)っばい。そいでよかじゃろうかあ」ち。

「いや、よかよか。鬼の出て来てもよか。泊めて下さい」

「そんなら泊まってよかろう。ところが、そんならば、

私の言うことをようっと聞かんばいかんよ」

て、言われたですね、

「そんならば、鬼がほんな近くに来た時に

羽ばたきをして、鶏の鳴き真似ばせんばらん」て。

「それを二、三回やるとよい」て、こう言うわけですね。

そうして、お爺さんは暢気坊で、休ませてもらうごとになったら、

お爺さんすぐ、グウグウ寝てしまいなさったて。

もう何時、時間が経ってしまったかわからんが、

やっぱりお観音様の言われたとおり、鬼が何人もやって来たて。

その何人もやってきた鬼が、

「ドンドンカンカン、シーラヒョ」

(これを母から二、三回聞かせられよると、

とろうっとなっですもんね。)

「ドンドンカンカン、シーラヒョ」と、

二、三回聞いているうちに、

だんだん近こうなってきたろうが。

そうして、いよいよ近(ちこ)うなったと思うや時に、

今度は観音様から聞いた、教えられたとおりに、

「パタパタ、コケコッコー」そうしたら、

「ありゃ、今日はもう夜が明けたがのう。

俺どんがおすう来たわけ」と、そいに合わせたようにまた、

「コケコッコー」

「こいは大事じゃ、早(はよ)う帰らんない夜のちい明くっ」

と、そいに合わせたようにして、また、

「パタパタパタ、コケコッコー」て、やったもんじゃい、

もう鬼達は持つのも持たずに、

みんな捨ててしまって、そうして逃げたと。

それをそのお爺さんは、その頂き物として、

自分の袋にみんな入れて、

そのままお頂戴して家に持って帰った。

ところが、その隣の婆さんが、

障子の穴からこうして見よったて。

「わあーい。隣の爺さんが、あぎゃんことして。

ようし、俺まあーだよけいに取ってくい」

こうやったわけですもんね。

そうして夕方にかけて、今度婆さんが山に行く。

そして、お観音様を騙すわけですよ。

「お観音さん、私はこういうわけで椎の実拾いに来たが、

いっちょんでんあえとらん。俺も一晩泊めて下さい」

ところが、お観音様はちょうどお爺さんに、

よこびいきしさらんから、お爺さんに言われたとおりに言われた。

そしたら婆さんが、

「私ゃ、鬼はあんまい怖(えず)うなか」

「そいばってん、鬼は怖いものよ。

私の言うとおりにしないさいよ」て。

また、鶏の羽ばたきと鳴き声ば教えなったわけ。

ところが、そのお婆さんはお爺さんのように心がけが

純じゃないもんですけん、なかなか眠らん。

いつ来るだろうか。

来たないばすうやろうで、そいばっかり思いよるわけ。

ところが、時間が経ってみたところひとつも変わらんように、

「ドンドンカンカン、ドンドンカンカン、シーラヒョ」

て、近づいてくる。

そうして、その、羽ばたきをして、今度鶏の鳴き声ばしてみたら、

「ほうりゃ、今日もまたその、早う夜の明くっかの」と、

その鬼達の驚きよっ様子が、ほんにおかしゅうして見ちゃおられん。

そしてまた、

「パタパタパタ、コケコッコー」と、やったら今度また、

滑稽も滑稽、慌て方が。

そいもんじゃい、とうとう婆さんが、クスクス笑うたて。

ところが、鬼達がはっと気づいて、

「こりゃ、人間の臭いじゃ。行たちみろ」と、

近寄ってみると人間の臭いのしよっ。

そいでその、

「お前やったか。騙しよっとは」

そして、鬼達が非常にはらかいて、その婆さんを散々な目に合わせて、

そうして、とうとう何にも、

おみやげも持たせずに追い返してしまった、と言う話です。

(出典 三根の民話 P165)

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