唐津市馬渡島二松 牧山トモ(明12生)

 猿と蟹とおったてな。

ところが、猿が大きな柿の種、蟹は大きな握り飯を握り。

そうすると猿はえらこうて、そうして今度(こんだ)あ、

「蟹さん、蟹さん。この柿の種はりっぱなもう、日本一の柿の種。

これを見れば大層の柿が生きてな。この握り飯と替ゆうじゃなかか」

て、言うちゅうたい。ブッブッあわ出しながら、

「替ゆうでやあ」ち。

「はい」ち。

そして、その柿の種を持って逃げ出す。

「俺(おれ)、くれろ」

「仕方なかにゃあ。替えんばたあ」ち、替えて。

「柿の種俺がやっ。俺(おい)がやっ」言うちいうた。

「早(はよ)う、太うなれ。太うなれ。

太うならんば鋏(はさ)みでチョン切るぞ」て言うた。

蟹が鋏みを持っとるけんな。柿の種は太うなっ。

「花の咲け。花の咲け。花の咲け。咲かんば鋏みでチョン切るぞ」

て、言うたちゅう。そうして花がベッタリ咲くちゅう。そうして、

「さあ、柿のなれ。柿のなれ。実になれ。実になれ。早うなれ」

て言うて、水ばかくっ。

そいぎにゃ、大きな柿が枝の折るっごと、なったちゅう。

そうしてなって、

「早(はよ)う、熟()め。早(はよ)う、熟()め。早(はよ)う、熟()めよ」

て言うて、

「熟()まんば鋏みでチョン切るぞ」て言うて、熟んだて。

そうして、こうして眺めとくてちゅうたいのう。

さあ、熟んどらすとにゃあ。

こればどうして落ちてくっとば待っとると思うとったら、

猿がやって来たちゅう。

「おい、こりゃあ。今日その柿、俺(おい)ちぎらせんかい」

て、言()うちゅうたい。

「ちぎって、俺(おれ)もやらんばぞ」ち言()うぎにゃ、

「下()りっ」ち言うて、上がってちぎって。

そうして熟んだとわが食うて、

「うんみせ、さねみせ、のってみせ」

そうして、

「俺(おれ)やれ。俺(おい)が植えたものよ。

握り飯は食うてしもうて。俺もやれ」ち。

青かとばちぎつて投げてくるわしとっちゅうもん。

そうしたら蟹が死んだちゅう。

ところが、大層子どもがおってな。

そうしたところが、もう腹がたってたまらずに。

誰もかにもやとうちゅうたん。

臼も来う、栗も来う、蜂も来。

蜂がチクン、チクン、チクン。そうしてブンブンブンガラガラ言うて、

栗がポーンて飛び出す。

猿の目ん玉つぶれた。

ところが出てきて、ところが今度(こんだ)あ臼が出てきて、

ピシャリつぶされたちゅうた。

そればっかりばっとんのとんさきたい【それでおしまい】。

〔動物昔話〕

(出典 未発刊)

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