唐津市馬渡島二松 牧山トモさん(明12生)

 勘右衛門がおったちゅう。

天狗が隠れ蓑を持っとったちな。

そうしたところがその、勘右衛門さんが、

わがほげにゃあば持っていて、こうして入れて、

「俺(おり)がこれで見っぎぃ、東京も見ゆっ」ち言()うて、

「俺(おい)がとこりゃあ、その、隠れ蓑」て言うて、

「何(なん)じゃいかいじゃいその、それとこれと替ゆうじゃなかか」と。

「おう」と。

「わりゃあ、何が恐ろしっか」て言うて、その天狗に言うたところ、

「俺(おり)ゃあ、三の池がいっちょ恐ろしか」て、天狗が言うたち。

そうしたところが、

「主(ぬし)は何(なに)が恐ろしかかい」て、言うたりゃ、

「俺(おり)ゃあもう、あのぼた餅と酒がもう、いっちょ恐ろしか」

て、勘右衛門が言うたちな。そうして、隠れ蓑はおっとって、隠れたち。

「そんない、いやもん」て。

そうしたところが、天狗はそれをほんなこて言った。

婆さんが来たわけ。酒を一升徳利に買()うて来て、この家の近くにゃ横から投げて、

「ああ、嬉々。こりゃあまた、もうご馳走か」ち、

もう天狗の前に勘右衛門が食ぶっていち食うた。

そうして天狗は勘右衛門にゃ負けた。

天狗も人間の勘右衛門に負けたち。

そうしたら、餅も食うて、そうして酒を飲うで、さあ、酒で酔うてきた。

餅も食えば甘か物は腹の中、喉渇く。

「ああ、俺(おり)ゃあ今度(こんだ)あ、

徳利に水入れて来らるっとがいっちゃ恐ろしか」ち言()うて、

勘右衛門が言うたら、天狗はほんなこて、

「さあ、畜生。わがえらかしたけん」て、ち言()うて、投げた。

「ああ、おおきに、おおきに。おいしかったたい」ち言()うて、

またブンブンにて、水を飲み、天狗はもう勘右衛門さんに負けたち。

勘右衛門ばっかりやらかしよった。

(出典 未発刊)

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