唐津市肥前町星賀 前田亀太郎さん(年齢不詳)

ある おぼろ月夜、勘右衛門は、

「まぁ、鏡山の猿どんが田んぼに尻尾を差し込うで、

夜の明くるまでしとくなら、鯉でん鮒でん、

食べ飽きするごと釣るっとこれ」

と、わざと言うて回った。

鏡山の猿どんは勘右衛門さんが言っていたことを耳にして、

「この溜池がよかとのおろうごたっ」と、

三匹の猿は尻尾を差し込んだ。

勘右衛門さんはどこかに隠れていて、

「いまあげると鯉や鮒の太かとのかかいよるぞ【釣れているぞ】」

と、低い声で言った。

猿は耳が近いから、勘右衛門さんが言ったことがよくわかり、

「ようーし、いま取るな。取らんちゃよか」

と、じっとしていた。猿の尻尾は重くなってきた。

夜が明けてきた頃、

浜崎のある農家の人が唐津の町へ肥取りに行っていた。

その人は、

「あら!あすけぇな猿がおっ。あん畜生どま、たたき殺せ!」

と寄ってきた。

三匹の猿はピンピンはね回って逃げようとしたが、

しっぽが凍りついて取れなかった。

命がけで三匹ながら力を入れて尻尾を取った。

すると、尻尾は付いてこなかった。

凍りついて尻尾は切れてしまった。

猿の尻尾はむけてしまい、血はタラタラと流れてきた。

そして三匹の猿は、キャアキャアと鳴きながら、

鏡山へ帰っていってしまったとさ。

(出典 佐賀の民話第一集 P184)

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