唐津市鎮西町加唐島 西村ハルさん(年齢不詳)

 むかし、むかし。

あるところに貧乏なお爺さんとお婆さんが仲良く暮していたと。

そして、馬を一頭飼っていた。

ある晩、雨がひどく降った。

そこへ盗人が入って、馬小屋の張りの上に隠れていた。

それは馬盗人だったと。

お爺さんとお婆さんは馬盗人のことなど知らずに寝床にはいった。

そして、お婆さんは、

「お爺さん、お爺さん。今夜は、古屋の漏りが来っですねえ」

と言った。お爺さんは、

「はあ、そうね。今夜は確かに古屋の漏りが来るよ」

と、お婆さんに言った。

それを張りの上で開いていた馬盗人は、古屋の漏りが恐ろしくなってきたと。

恐ろしくなってきたもんだから、張りの上で震えはじめた。

震えのために馬小屋の張りの上から落ちそうになった。

恐ろしさをがまんしていたが、震えはとまらなかった。

とうとう馬盗人は張りの上から落ちてしまった。

化け物も馬小屋の中にはいっていたと。

その上に馬盗人は落ちてしまったと。

すると、化け物は馬盗人を古屋の漏りが来たと思って、

ひどく降る雨の中を走っていった。

馬盗人は化け物をしっかり握って離さなかった。

化け物は夜明け方まで逃どおしだった。

穴の開いているところを化け物は、ピョーンと、

飛び越えたとき、馬盗人は穴の中に振り落とされたと。

化け物は、古屋の漏りが穴の中に落ちたと思って、ほっとした。

そして、化け物は道を歩いていった。

すると、猿に出会った。猿は化け物に、

「どうしよるか。えらい【本当に】すまん【すました】顔して」

と言った。化け物は、

「古屋の漏りにつかまって、たいへんだったよ」

と、猿に言った。

「古屋の漏りは、どけおるか」

と、化け物に聞いた。

「ああ、穴ん中にうっちゃえた【落ちた】」

と、猿に言った。

猿は古屋の漏りをからかってやろうと思っていた。

古屋の漏りが穴の中に落ちたところまで、猿は化け物に聞いて行った。

そして、猿は自分の尻尾を古屋の漏りの落ちた穴の中に入れて、

「さぁ、古屋の漏り!これにかがい【すがり】付け」

と言った。

馬盗人は、これは縄の下りてきたと思って、尻尾をしっかりつかんだ。

猿は尻尾に力を入れて持ちあげた。

馬盗人が重かったので、猿の尻尾は切れてしまったとさ。

だから、猿の尻尾は、短かくなったと。

こいばぁっきゃ。

(出典 佐賀の民話第一集 P208)

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