唐津市北波多村徳須恵 井出英司さん(年齢不詳)
むかし、勘右衛門さんは多額の借金をしてしまった。
師走のある日、勘右衛門さんは、
「魚でいちばん血の気の多いのは何じゃろうか」
と、魚屋さんにたずねたら、
「うぅん、小さくて血の気の多かつなら、鯖どんよかろう」
勘右衛門さんは、今年も借金とりがそろそろやって来るだろうと思って、
買ってきた鯖をしっかりと腹に結んでいた。
そこへ借金とりが五、六人押しかけて来た。
勘右衛門さんは、待っていたといわんばかりに、
「もう、私ゃ、どうしよんなか。
みなさんに腹切っておわびするけん、それで勘忍してくれろ」
と言って、包丁で切腹をして見せた。
腹からは血がタラタラと、鯖の血が流れ出た。すると、
「こりゃ大ごつ。こりゃもう、勘右衛門さんばうち殺したごつなる。
おらもう、何もいらんばい」と言って、
借金とりどもは帰って行った。
そういうふうに勘右衛門さんは頓智のよい人じゃったとか。
(出典 佐賀の民話第一集 P182)