神埼郡脊振村西鹿路 山本善作さん(年齢不詳)

 むかし。

倉谷のふうけ者が年頃になったので、ある人が嫁を世話してやった。

ふうけ聟(むこ)は節供に嫁さんの里へ行った。

嫁さんのお母さんは、聟さんに団子(だご)を出された。

その団子はたいへんおいしかったので、

「これは何ちゅう物かい」と聞いた。すると、嫁さんのお母さんは、

「これは団子ちゅう」と、聟さんに言った。

「うちの嫁御も、団子を作いゆっじゃろうか。」

「作いゆっくさい。うちの娘やっとこれぇ。」

ふうけ聟さんは、帰ってから団子を嫁に作ってもらおうと思って、

「団子、団子、団子」と、言いながら帰って行った。

その途中、石跳びがあった。ふうけ聟さんは、その石跳びを渡るとき、

「エントコ」と言った。それから先は、ふうけ聟さんは、

「エントコ、エントコ、エントコ」と言って、家まで帰った。

ふうけ聟さんが家に着くと、

「嬶(かか)、いま戻ったぞ。ほんにおいしか物を食わせなった」と言った。

「何を食わせたねえ。」

「ああ、エントコして食わせなった。」

「エントコなんてん【など】、家はせんよ。」

「そいばってん、エントコをして食わせなった。

おまえのエントコを知らんことの、あんもんかい。【あるものか】」

「いんにゃあ【いいえ】、そのエントコは知らん。」

ふうけ聟さんは、嫁がエントコを知らないと言いはるので腹を立てながら、

「エントコやっかぁ!」と言って、叩いた。

すると、嫁の頭に瘤(こぶ)ができてしまっだので、

「あんたが叩いたけん、団子のような瘤ができた」と、ふうけ聟さんに言った。

「うーん、そうそう。その団子、団子」

「『団子なら団子』と、言えばよかとに、『エントコ』ち、言うもんじゃい」

「『団子、団子、団子』ち、言うて来よったばってん、途中に石跳びがあって、

『エントコ』ち、跳うだもんじや、エントコにいちなった。ほんに自分が悪かった」

と、ふうけ聟さんは嫁にあやまった。

(出典 佐賀の民話第二集 P67)

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