嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)
むかーしむかしねぇ。
もう城を攻めたい攻められたいばっかいじゃったちゅうもん。
ところが、ある城がさ、難攻不落ちゅうて、もう東ん方は日本海、
西の方は恐ろしか高い崖て、いうごとして、恐ろしか堅固な城じゃったちゅう。
そいぎぃ、敵の大将がねぇ、
「あそこば攻め落とすには、水攻めすっより他(ほき)ゃあなかばい。
飲み水も何(なん)もなかごとなっぎぃ、城の者達はもう降参して出て来(く)ってぇ。
そいけん、水ば絶つごとしゅう」言うて、もう、半月もこけぇ構えとっけん、
もう、飲み水もなし降参すっばい、と思うとったぎぃ、
ヒョッと夕方見てみたぎぃ、真っ白か水んごたっとば、
シャーアシャーア、シャーアシャーア、馬ん体にかけて洗(あり)いよっ姿の見ゆっちゅう。
そいぎぃ、
「ありゃあ、まあーだ城にあんなにきれいか水の沢山(よんにゅう)持っとっ。
こりゃあ、一時(いっとき)そっとじゃあ(スグニハ)落ちんけん、
もう退散しゅうかあ」て言う、風向きやいたちゅう。
ところが、斥候(せっこう)が来て、そいば、スパイのごたっとがねぇ、
探(さぐ)りゃ行たとの、帰って来てさ、
「まあーだ、城の水はふんだんにあっごたっ。馬に水かけて洗(あり)ぃよっ」て、言うたら、
「いや、大将。それは違います。こっちをあの、仇討つために白米をねぇ、
ほんな白米ば馬の背中にザラザラかけて、水に見せかけとります」て、言うたて。
「そうか。そいがほんなこてやったとかあ」と言うて、
またこっちの方にワンサと勇気が出てきて、
とうとうその城は攻め落(お)てぇたて、いうことです。
[一二二 自然説明伝説(城)]
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P811)