嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

峠(佐賀県杵島白石町室島)に仲の良か夫婦が住んどったちゅうもん。夫は樵(きこり)、妻は駄菓子など売っとったてぇ。けれども、とっても仲良しじゃったけど、十三年も経ったのに子供がいっちょんでけんやったあ。

そうした雨の降る晩じゃったてじゃんもん。近くで赤ん坊が、「ゴヤーゴヤーゴヤー」て、恐ろしゅう泣く声のしたちゅう。

「不思議かない。こんよん雨の降りよっとこれぇ」ち言(ゅ)うて、夫婦は眠ったそうです。

ところが、翌晩もまた、雨がやんだいどん、また赤ん坊が「ゴヤーゴヤーゴヤー」泣くちゅうもん。酷う泣くて。そいぎねぇ、この夫婦者(もん)は、

「行たてみゅうかあ。余(あんま)い泣くけん」ち言(ゅ)うて、泣き声のすっ方さい行たてみんさったて。

そいぎねぇ、石の泣きおったちゅうもん。石から、「ゴヤーゴヤーゴヤー」て、赤ん坊の泣くごと聞こゆっちゅう。そいぎぃ、その嫁さんな、女の本能で余(あんま)い泣くその声に絆(ほだ)されて、我が子を持ったごとなかもんの、乳も出んとこれぇその石に、我が乳を石に押しつけんしゃったぎぃ、そいぎ石が、じき泣きやんだちゅうもん。そいぎぃ、

「我が乳ばやっぎぃ、あぎゃん石の泣きやむない」ち言(ゅ)うて、そいから毎晩、その石ん所さん嫁さんの来ては、乳ば押しつけよんしゃったちゅうもんねぇ。押しつけおったぎぃ、三日ぐらい経ったぎにさ、乳がコリィコリィして、プツーンブツーンははってきた。そうして、とうとう嫁さんには子供ができたてじゃんもん。そいどん、その石には、そいから先も時々泣きおったちゅう、その石は。

そいぎぃ、その石の泣くていうことが、噂が殿さんの耳まで達したて。そいぎぃ、京都から偉いお上人さんがやって来て、その石に恐(おっそ)ろしか尊いお経ば上げんさったてやんもんねぇ。そいぎぃ、その石の毎晩泣きよったとの泣かんごとなったて。そいけん、その石には雨にも濡れんごと、祠(ほこら)も建ててやんさったちゅう。

そいからは、夜泣き癖の子供てん、乳の出んお母(っか)さんてんが、そこに参ってみっぎねぇ、「じき泣く子は泣かんごとなるし、乳の出んお母(っか)さんから乳の出るごとないよった」て言うて、この石の評判は、ほんにそのへんいっぱいよい、日本全国に広がったてよ。

そいばあっきゃ。

〔一〇八 自然説明伝説(石)〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P799)

標準語版 TOPへ