嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

田舎では、あの、副業にねぇ、藁細工しおったもん。そいぎねぇ、恐ろしか雪の降って寒い日じゃったて。そいぎ土間でお爺さんがねぇ、草履ば作いおんさったて。向かい合ってねぇ、お婆さんはねぇ、火鉢を自分の手元に置(え)ぇて、そうして火鉢をいれて、お婆さんは寒がりだもんだから、手ばあぶっちゃあ、火鉢の手ばあぶっちゃあ縄綯(な)いよった。

そいどん、草履を作いながらお爺さんは、お婆さんの面(つら)ばあっかい見ながら、こうこうして手ばなれと作いおんしゃった。お婆さんなお爺さんばあっかい見ながら、こうこうヨリヨリヨリってして、縄ば綯ゃおんしゃった。もう随分長いこと二(ふた)人(い)とも、お爺さんはお婆さんを見い、お婆さんはお爺さんを見いしおっところ。何(なーん)かさっきのように煙(けむ)い臭か。何(なん)か燃え臭かごと。煙(けぶ)いの立つ。あら、何やろうかにゃあ、思うて、見んさったぎぃ、そのお婆さんの横の方に据えられとる火鉢から、煙りモウーンモウーン出よってじゃんもんねぇ。そいぎぃ、

「あーりゃ。婆ちゃんや、お前(まい)の火鉢は今、火事起こそうでしおっ」て。そいぎ今(こん)度(だ)あ、あの、お爺さんの方ば向いて、お婆さんが、

「お爺さん、あんたもこの草履は何(なん)や。誰(だい)の履く草履やあ。恐ろしゅう長い草履じゃないの」て、めいめいが手元ば見んでしおったもんやっけん、お爺さんは一尺以上もある草履ば作いよった。お婆さんは火鉢の方に、藁の端ばドンドン、ドンドン入るんもんだから、それに気がついて、そうしてもう、その夜鍋したた何(なん)にもならんように、灰にないよった。というとんだ失敗でした。

チャンチャン。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P623)

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