嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

むかーしむかしねぇ。

お爺さんとお婆さんに、きれーいか一(ひと)人(い)娘さんがおんしゃったてぇ。

そいぎぃ、娘盛いになってほんにきれーいかちゅうもんねぇ。

「ほんに、家(うち)ん子も肌ん良(ゆ)うなって立派しゅうなったのうー、お婆ちゃん」

「お爺さん、あんた見ても立派かごとあんねぇ。ほんに、今頃色気の出てきてきれいかなたあ」ち言(ゅ)うて、お爺さんとお婆さんは言いよんさったちゅう。

「誰(だい)でんあぎゃんなっ」て。

「あいどんねぇ、何(なん)じゃいば使(つき)ゃあおっばい。そいけん別嬪になっとばあい」

そぎゃんして話しよんしゃっ時ゃあ、あの、

「お風呂に入って来まーす」ち言(ゅ)うて、桶ば抱えてその娘さんが出て行ったちゅう。そいぎぃ、

「あの部屋ば見てみってぇ」ち言(ゅ)うて、お婆さんが行きんしゃったぎぃ、

「あの子の部屋にぎゃん美しかお菓子のあったばい。ツルツルすっとの、ぎゃんとば食(き)いおっぎぃ、あぎゃんきれいになっとばい。おどめ(私達)は、いっちょん食わせじぃ、我が一(ひと)人(い)ぎゃんとば食べよっぎにゃあ、美ーしかとねぇ。どら、おどんもちぃっとわからんごと食べてみゅうかあ。お爺さん、あんたと二(ふちゃ)人(い)。あら、硬(かた)か。包丁持ってきて真(ま)二つに割ろう」て言うて、割ってお爺さんとお婆さんが、それをかじって食べんしゃったてぇ。そうして、

「余(あんま)い美味(うま)か物(もん)じゃなかったねぇ」て言うて、食べ終わったところに、

「ただいまー」ち言(ゅ)うて、娘が、

「私ゃ、忘れ物しとったけん来たーあ」ち言(ゅ)う。

「何(なん)ばーあ」て。

「お風呂に行きおったどん、大事な物ば忘れとったあ」

「そいぎ持って行かじいにゃあ」て言うて、部屋に行ってコソコソ、コソコソ、カタカタ、カタカタして、

「なかー。誰(だい)じゃい私の部屋に来たろう。鏡台、鏡ん前に置(え)ぇとった白ーかとば、誰じゃい取りゃあせんじゃったねぇ。なかー」て。

「ありゃあ、食(た)ぶっとじゃなかったかーん」て、聞いたら、

「いんんにゃあ、食ぶっとじゃなかー。石鹸じゃっんもん」て、娘さんが言うたて。

「ありゃあ、食べてしもうたあ」

石鹸のごときれーかごとしとったからねぇ、て婆さんな思うて、

「食べてしもうたあー」てねぇ。

「ほんに困った。折角、高(こう)う出(じ)ゃあて買(こ)うてきたとこれぇ」ち言(ゅ)うて、娘さん、「今日はお風呂お休み」ち言(ゅ)うて、腹かいたて。

しかし、そいからお爺さんとお婆さんは、代(か)わい代わい、代わい代わいトイレ行って下痢して、どがんしゅんなかった。「くだり菓子」ち。

物知らんていうぎねぇ。石鹸ば食べらしたもんで爺さんも婆さんも腹くだしさしたて。

チャンチャン。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P624)

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