嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 もう、とてもねぇ精出して働く爺様がおんしゃったちゅう。そいぎぃ、

「爺ー様。今日(きょう)は何(なん)蒔(ま)きよんなーあ」て、呼んだら、

「シーイッ。シーイッ」て、口に当てて言んしゃって。

「何(なん)ば蒔きよっとーう」

「高(たこ)う言うぎぃ、鳩に聞こゆーっ」て言うて、「こっち来(こ)ーい」て、手招きしんしゃっけん、側に行ったらね、

「豆蒔きよ一っ」て、小さか声で言んしゃって。

「何(なー)して、そんなに小(ちい)そう言いおっ。『豆蒔きおっ』て、言えばいいのに」ち言(ゅ)うたら、爺さんは、

「鳩の聞いたらじきに食べや来(く)っぞう」て、言んしゃったて。

そいぎねぇ、ほんに面白か爺さんて評判じゃったちゅうもん。

ある日のこと、誰かがねぇ、

「お金のいっちょんなかあ。お金の音ないとん聞きたかにゃあ。お金はいっちょんなかあ」て、ある隣(とない)の辺(にき)の男が言うたぎぃ、その爺さんはお斎(とぎ)の前に鳴らす冥鉢(みょうはち)ばお寺に借いぎゃ出かけたて。そうして、

「鐘の音ば持って来たぞう」て、言うたて。

「金の音ない、金ばあんた持って来たとやあ」て、聞いたら、

「良(ゆ)う耳をほがして聞いてみい」ち言(ゅ)うて、その冥鉢ばジャラジャラ、ジャラジャラって鳴らして、

「良か鐘の音やったろう」て、こう、その爺さんな言うたそうです。

そいばあっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P623)

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