嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

海で魚釣りしおった男がさ、恐(おーそ)ーろしか珍しか魚(さかな)ば釣い上げたてぇ。そいぎ見てみたぎねぇ、ピンク色して桜色しとってぇ、表(おもて)の方は。そうして真ん中(なき)ゃ金の釣鐘のヒューッと大概きれいかちゅうもんねぇ。こりゃあ何(なん)ちゅうとじゃろうかあにゃあ、名前も知らんとの釣れたやあ。魚屋にの持って行たこんな、魚屋さんの名前ば知っとらそうだーい、と思うてねぇ、早速、魚屋に行たて、

「お前(まり)ゃ、知っちょろうだあーい。こや、何(なん)ちゅう魚(うお)やあ」て言うて、その魚釣いがたずねたぎねぇ、魚屋の言うことにゃあ、

「こいは『イトヨリ』て、言うもんでございます」て、丁寧に教えてくいたてぇ。そいぎぃ、

「どんな字を書くとやろうかあ」て、今度あ聞いてみたぎぃ、

「魚屋しおって字まで知んもんですかあ」

こういうことやった。魚屋じゃっけん、字は知らん。

「字のことないば、お寺の和尚さんに聞きござい」て、こういうことやった。そいぎ早速ねぇ、お寺さい行たてねぇ、

「和尚さん、そりゃイトヨリてやあ。あいどん、イトヨリはどぎゃん字ば書くとやったかにゃあ」て、和尚さんも知んさらんやったてぇ。そうして、

「私(わし)ん所(とけ)ぇにゃね、あの、字引もあっけん」ち言(ゅ)うて、分厚か字引きば持って行たて、そいば隅から隅に持って行たて見よんさったぎね、この和和和て、三つ書ゃあたと見て、

「こいばい。イトヨリてばい」て、言んさいた。そうして、

「その由来(いわれ)は、泉の『イ』、大和の『ト』、日和の『ヒ』て、イトヨリて言うことたい」て、こう念ば押しんさったあて。そいぎ男はねぇ、わかったごとわからんごとして、「『和和和』ちゅうとばイトヨリてやろうーかあー」て言うて、まだゆう納得せじぃ、我が家(え)さい帰ったちゅうばい。

チャンチャン。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P620)

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