嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

もう何(なん)か、お寺詣(みゃ)あばしせんば、他に行く所(とこ)はなかったけん、もう何(なーん)ちゅうても、いろいろ協議すっばってん、お寺。そいから楽しみのこともお寺。お彼岸詣あいもお寺て、言うことじゃったて。

そうして、立派かお寺のあったちゅうもんねぇ。良かお寺には小僧さん達も三人もおんしゃったて。そいぎそこに、総代さんのやって来て、何時(いつ)ーでん掛軸の立派か掛軸の掛けてあったちゅうもん。そいぎぃ、総代さんのニコニコしてねぇ、

「小僧さんやあ、こけぇ来(き)てんさい」ち言(ゅ)うて、呼うで、「こいば、お前どま読みゆっかにゃあ」て、聞きんしゃったぎぃ、

「難しかにゃあ。余(あんま)い立(じっ)派(ぱ)に書(き)ゃあてあっけん難しかにゃあ」て言うて、見よらしたて。

「あいどん、お前(まい)達ゃ何時(いつ)ーでん、和尚さんから良かお説教ばっかい聞いて、良(ゆ)う和尚さんの何時ーでん言いよいござっけん、ぎゃんと読みゆうがあ」て、総代さんの言んさいたちゅうもん。

そいどん、見よるぎ見っほど難しかて。もう墨黒々と、太か字で書(き)ゃあてあっちゅうもん。あいどん、チョッと一(ひと)人(い)でん三人おったいどん、誰(だーい)も読みえんじゃったて。

「もう、総代さん。読みゃあえん」

「わい達ゃ無理(むい)な者(もん)なあ」て言うて、総代さんな、「良う、耳の側ばほぎゃあて聞きおれよう。こりゃあにゃあ、『心は丸く気は長く』て、書(き)ゃあてあっと」て、言んさったちゅう。

そいぎぃ、小僧(こうずう)さん達のこうして見おんしゃったぎぃ、上ん方は真ん丸がごとしとっちゅうもんねぇ。下ん方は長(なーん)か字じゃったちゅう。

「ありゃあー、ほんなこてぇ」て言うて、「もう、読みゆっ」て、そいから先ゃ言わしたちゅう。

「良う、お前(まい)達ゃ覚えとかい。何時(いつ)でんにゃあ、この心構えでおっぎぃ、こなたの和尚さんのごと立派か和尚さんになっぞう」て言うて、総代さんなひと説教しんさったちゅう。

そいばあっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P621)

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