嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

お寺の和尚さんがさ、小僧さんに、

「今年の夏は暑くてたまらん。みかん山からさ、風ば取って来てくいろう」て言うて、恐ろしか太か袋ば持たせて、

「みかん山さん、あの山さん早(はよ)う行たて、涼しか風ば持って来い」ち言(ゅ)うて、やんしゃったてぇ。

そいどん、みかん山は遠かてじゃっもんねぇ。そいぎもう、ドンドン、ドンドンみかん山めかけて歩いて行きよったぎぃ、

「なあ、ここらでちょっと一休み」ち言(ゅ)うて、休んどったぎぃ、そこで草臥れてつん寝ってしもうたてぇ。

そうして、目を覚ました時ゃもう暗(くろ)うなっよっ夕方やったてじゃっもんねぇ。日暮れやったて。ありゃ、こりゃあ、しもうた。寝過ぎたなあて、小僧さんな、さてさて、どうしよう。困ったにゃあ、このまま帰っぎぃ、和尚さんから叱らるっばい、て思うたて。そいで、腕組みして小僧さんは考えおったいどん、まあーだみかん山は遠かちゅうもんねぇ。そいぎ小僧さんは、

「そうだ」て、手を打って元気づいて、こう袋にちぃっとでん風ば持って行かんば、和尚さんな機嫌の悪かろうだーい。怒んさっに違いなかあ、と思い込んだもんだから、その大きな袋の口ば開けてねぇ。そこにねぇ、自分のお尻をひんまくって、おならばプップッて、何回でもおならばしんしゃったて。そうして、早(はよ)う口ば塞(ふし)ゃあで、シッカリ塞いで、担げてお寺に帰って、

「和尚さん、ただいまー」て言うと、和尚さんの、

「えらい遅かったなあ。待っとったぞう。早う風ば出してくれ。夜(よ)さいでも温(ぬっ)かあ」て、言いますもんで、

「さあ、どうぞ」て言うて、小僧さんが袋の口をあけたて。

そいぎさ、プーウて、臭かてじゃっんもんねぇ。ビックッとして和尚さんな、小僧さんなそけぇ、つっ立っとたぎぃ、和尚さんの言わるっことにゃ、

「今日の風は、いやに臭うなあ」て、言んしゃったて。そいぎぃ、小僧さんはすかさず、

「和尚さん、和尚さん。こう暑くちゃ風も腐れたとばーい」て、言んしゃったて。

そいばあっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P617)

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