嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 ある夏のもうとても暑い日じゃったてぇ。

夕方がきたてぇ。そいぎぃ、雷さんなさ、

「雲の下では人間がビックイしよっばいにゃあ、

ゴロゴロ鳴れこい」ちて、

面白がって雷さんがピカピカ、

ゴロゴロいいよったてじゃんもんねぇ。

そいぎぃ、人間どま怖(え)っしゃあ、

あっち行きこっち行きして、

怖(え)っしゃしよったて。

さあ、ほんに酷う無茶苦茶に雷さんが

暴れんしゃったて。

そいで、人間どまどぎゃな顔ばしとろうかにゃあ、

と思うて、雲ばちぃっと、

こう開けて下ん方ば雷さんの覗きんしゃったて。

そいぎぃ、面白う、ウロチョロして

阿呆(あほう)な顔ばしとんもんじゃい、

面白か拍子に、

「ハハハア」て、笑いんしゃったぎぃ、

気が緩(ゆる)んでそこん雲の間(やあなか)から

真っ逆さまに落ちてしまいんしゃったて

じゃんもんねぇ。

そいぎぃ、こともあろうにさ、

その村の神さんの氏神さんの

頭の上に落ちんさったて。

そいぎぃ、神さんな、

「こりゃあ、不届けの奴じゃあ」ち言(ゅ)うて、

持っておんさった鎌でさ、雷さんの尻尾ば

ひっ(接頭語的な用法)つかんで、ヒャーッて、

切てしみゃいんしゃったて。そいぎ雷さんな、

「ワァ、痛かったあ。ワァー」ち言(ゅ)うて、

二度とこの神さんの上に落ちまっせんけん、

堪忍してくんさい」ち言(ゅ)うて、

硬う約束ばしたて。

そいぎ神さんなねぇ、

「そんない許そうだい」て。

「その代わりお前(まい)の魂をこけぇ置いて行けぇ」

て言うて、離してやんさったてぇ。

そいぎねぇ、もうその氏神さんの境内の松の木には、

何時(いつ)―でん雷の魂のそけぇあったてぇ。

そいけん、氏神さんの祭いには

鎌の印ばつけたとばさ、そいば先頭に立てたと。

神さんの祭いの時ゃ必ずこの鎌で雷さんば

退治してくんさったけん、

その鎌ん印ばお供えもしたちゅうよ。

そいばっきゃ。

[八八  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P362)

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