嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 そいぎ話します。今度は「石の裁判」。

むかーしむかし。

ある村の子供が、

「遠い所に住んでいる自分のお爺ちゃんに会いたい」と、言いました。そうすると、親達は、

「お爺ちゃんは遠いから、今、あんたが行くのは大変よ」て、言ったけど、子供は、

「いやーあ。お爺ちゃんに会いたい、会いたい」て言って、聞きません。

すると、少しばかいお金を包んで持たせて、お爺ちゃんに会いに行くことに子供は、なったんです。テクテク、テクテクと、歩いて行きました。そうしてねぇ、もう日が暮れてしまったんです。だあー、どうしようと思ったけど、そこに道の側に大きな欅(けやき)の木があって、ああ、ここで一時(いっとき)休もう。今夜一晩、ここに休もう、と決めて。だけど、親達から貰ったこのお金の包みは誰か眠っている間に盗まれると困るから、何処に隠そうかと。側に石があったから、ああ、この石の下に置いとけば大丈夫だと思って、石を持ち上げて、その下にお金の包みを入れといたんです。

ところが、このことを側を通っている心の良くない男が見ていました。そいで、この子供が寝入るのを見計らって、この石の下から、その、ソーッと石の下に子供が隠して置いたお金を持ち去ってしまったんです。子供は何も知らないで、一晩グッスリ寝て、翌朝、夜が明けたら、先ず第一に石の下に金包みがあるか、自分が石の下に置いたお金があるかと思って、見たら何もない。「ああ、お金がなくなったーあ」ち言(ゅ)うて、子供はワンワン、ワンワン泣き始めたんです。

「ここに、折角なおしたお金なーい。アーンアーン」泣いていたら、道を通った人も、

「何で、お前泣いているの」て、呼びます。そうすると、また、そいでも答えないで、

「アーン、お金がなーい。お金なーい。石に下に置いたお金がなーい」て、泣き止みません。

そうすっと、村人達も仕事に出ていた人達も、子供の側によって行く。

「何(なん)で、あんたあ泣いてるの」て言うて、呼びました。

そいでも何時(いつ)まってん泣き止まないから、村人達も大勢黒山ごとそこに集まって、そのうちに村の村長さんも何事かと思うて、沢山集まっていると思うて、やって来て、

「何で泣いている」て、子供に聞いた。

「この石の下に、お金を親から貰ったのは直しといたのが、今朝はない。何にもない。消えて無(な)くなったあ。誰かに盗られたーあ。アーンアーン」て泣く。

そうすると、村長さんはしばらく考えて聞いていたけど、

「この石の下に、お金包みを置いとったのが無くなったのかあ。そいじゃ、この石を裁判してみよう」て、言うことで、「そいぎぃ、この石を、村人達、裁判所まで運んでくれ」て。

「こりゃあ、面白いぞ」て、言うことで。黒山ん人達もゾロゾロ裁判所までついて行きました。

そうすっと、裁判所では村長さんが裁判長になって、

「では、ただ今から、この石の裁判を始めます」て言うて、裁判が始まったんです。

「石、お前(まえ)は名前は何ていうかあ」

そうすっと、大衆の中から、

「石よねぇ。石に名前はない。石よねぇ」て言うた。

「ああ、『石』か。お前(まい)、何処の出身か。この村の出身か」

「この村にあったから、この村の出身よね」て、また周りに集まった人達が言うてくれました。

「そうすっと、夕べはこの子供が、お金を包んだ紙包みを置いたことを、お前(まえ)は知っているだろう」

何とも言わない。

「黙っているところ、知っているに違いないね。ところが、今朝になったら、このお金がない。お前(まえ)が盗ったんだろう」

また何ともない。

「こんなに黙りこくって、黙秘権をするなら、お前(まえ)を黙秘権で訴えるぞ」

もう、でも、裁判が始まっているじゃない。そいでもう、裁判所の村長さんがこんなことを言うから、周りの人はクスクス、クスクス笑いんさっ。

「石、お前(まえ)はあの、確かにお金のあったのを知っているのは、お前(まえ)しか知らないよね」て、言うたら、またワッハアハアで。

「石が何(なん)て言うね」て。

「こんなに黙りこくって、黙秘権を使うなら、いよいよお前(まえ)は怪しい」と言うと、ワッハアハアで、笑いかけた。裁判長が言うには、

「この神聖な裁判所で笑って、傍聴するとは何事か。お前(まい)達、笑った者は罰を与える。今笑った者は、全部五十円ずつここに罰として出せ。裁判所の命令だ」ち。

そうすると、もう笑った者は、私、笑(わる)わんじゃった。て、言われん。もう集まった者は、皆(みーんな)、ワッハアハア笑ったから、皆五十円ずつ出しました。それを見た裁判長は、

「この村で子供の災難じゃった」て。「迷惑料として、この金子をみんなお前(まえ)に上げる。このお金を持って、お爺さんに会いに行くがよい」ち言(ゅ)うて、村長さんの裁判長は、お金を五十円ずつ、皆から集まったお金をこの子供に上げました。

子供は、この金額を見て、親から貰ってきたお金より多かったのに、迷惑料として貰ったお金は多い。良かったと思うて喜んで戴いて、それからお爺ちゃんの所へ、またテクテクと旅立って行ったということ。

そいばっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P581)

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