嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしじゃったて。昔話です。

村境に恐(おっそ)ろしか太か石のゾローッしとったて。そいば境にして上ん村と下ん村とあったてじゃんもんねぇ。そいぎぃ、上ん村の者(もん)どんが、「この石がおどんが石。ここまで」て。下ん村の自分の者な通りに来ぎぃ、「この石は、この石が境じゃっけん」て、言いよった。

ところがねぇ、もう下の村にねぇ、役所のでくっことなった。たった今、役所ばもう、そけぇ、デンて作ろうよいか庭ばここん辺(たり)作っぎぃ、ほんに寄いつき良かあ」て言うて、庭ば作ろうごとなった。あったぎぃ、木はそのへんに山じゃったけんあったいどん、

「ああー、こけぇは石ば据えたが良かばあーい」て、誰(だい)じゃい言うたぎぃ、

「ほんなこつ、石据えたがほんに良かない。そいぎさ、あの、峠の上の境石(さきゃあいし)、あいばあすこまでが俺(お)どんがとじゃいけん、あの石ば持って来てすっぎぃ、あぎゃん格好の良か石ゃなかぼう」て、誰(だい)か言うたて。そいぎ早速その、

「そいば、あの、動かしゆっけん、呼びに行こう」て言うて、泥棒ばした村ん者(もん)達が、登って来たてぇ。

あったぎねぇ、あの、太(ふと)ーかけんどがんふうに動かそうかあ。怪我すっことなんぞう」て言うて、しおったぎぃ、暇どって半日以上もひっかかとったけん、今度、上ん者どもが通りかかったちゅう。そいぎぃ、

「お前さん達は何(なん)しおっ」て、聞いたら、

「うん。あの、この石ば役所のでくっけん、そけぇ据ゆっ」て。「ほんに、都合の良か庭のできゆうばってん、あの、いっちょ据ゆうと思うて、持って行くごとしおっ。そいどん、ここまで俺(お)どんが村」て、聞いとったいどん、「お前達が、ここまで出(じ)ゃったとやあ」ち言(ゅ)うて、そこで話よっ所(とこ)に、ほんに知恵者の徳さんちゅうとが通りかかんしゃったて。そうして、

「あら、上ん村の者(もん)、下ん村の者も寄って、何(なん)のことやあ」言うて、言いおったぎぃ、

「『この石ば持って行く』て、言いよっけん、この石まで、うちん村んとやったろう」て、言うぎぃ、

「冗談(じょうたん)のこと。ここまでうちんとやったあ」て、下ん者(もん)どんが言うて、「持って行く」て言うて、「役所にこいば据えらるっぎぃ、ほんにはれんすっ」ち。そいぎ徳さんなジーッと考えよんしゃっ。一時(いっとき)ばかいしてから、

「よーし。あいの、この石ゃ二文で売ろうだーい」て、こう言うたぎぃ、下ん村ん者どんが、

「たった二文で良かない、俺(おい)で銭ゃ持っとっ」

「俺(おれ)も金は持っとっじゃあ」て言(ゅ)うて、誰(だーい)でんそけぇ銭ば出(じ)ゃあて、二文出ゃあたて。

そいぎまた、徳さんな一時(いっとき)しとったぎぃ、

「やあー。やめたあー。たった二文で、売られんごたっけん、やめた」

「そいぎぃ、幾らじゃいまちかっと高(たっ)かぎぃ、高(たこ)う出すばんたあ」て、言うたぎぃ、

「お前(まい)達ゃ、そいぎ二文で買うつもりじゃったかあ」て、言うたぎぃ、

「うん。買うても良かていう腹じゃったあ」

「あはー。そいぎぃ、わがどんの石ないば買(か)おうでちゃ言わんとん、上ん者の石て思うとったばいのう」て。「そいけん、買うて言い出(じ)ゃあたばいのう」て。「そいけん、お前達ゃ銭(ぜん)出(じ)ゃあたろうが。そいぎぃ、お前達んとじゃなか、こりゃ。ここまでが家(うち)んとう。もう売らん」て言うた。

知恵者には勝たんて。そういうことです。

そいばっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P580)

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