嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

そりゃあ田舎に知恵まわりの早か

善ちゃんちゅう者のいたちゅう。

そうして、

田植えもすんでさ、泥鰌筌(うけ)に朝早(はよ)う

若(わっ)か者(もん)たちの泥鰌ばすくっとが

楽しみじゃったちゅうもん。

ちょうど土用の丑(うし)の日のことじゃったてぇ。

若か者たちのねぇ、

「今日(きゅう)は丑の日じゃん。

泥鰌汁(どんじょじゅる)どんしていっぴゃあやろう」

て、言うてねぇ、

若か者宿で泥鰌汁を作いよったちゅう。

あったぎぃ、

じきその鍋が煮たって、泥鰌ば入れたばっかいの時、

間(ま)のゆう、善ちゃんがそけぇ通いかかったちゅうもんねぇ。

善ちゃんは、豆腐ば買(こ)うて来(き)よったちゅう。

そうして、

通いかかったてぇ。

そいぎ

若か者どんが、

「おーい。お前(まい)もかたれぇ。

そけぇ、手に持っとっと何(なん)やあ」

て、聞いたぎねぇ、

「うん。こりゃ、今豆腐買(か)いぎゃ行たあ」

て、言うたら、

「ちょうど良か。そん鍋ん中(なき)ゃあ豆腐ば入れやい」

て、言うもんで、善ちゃんは豆腐ばいっちょボトーンて、

その鍋ん中ゃあ入れらしたちゅう。

あったぎぃ、

じきねぇ、善ちゃんが言うには、

「ありゃ、俺(おれ)はさ、おろちいて家(うち)帰らんばらん」て。

「ああ、家(うち)から叱(く)るわるってぇ。早(はよ)う帰らんばらん」

て、言うよいか早う

鍋ん中ゃあ入れた豆腐ば急いで取り出(じ)ゃあてさい、

持って帰ったちゅう。

その後で若か者どんはねぇ、

一時(いっとき)鍋ば煮たてからさ、

「さあ、泥鰌汁にしゅう」て言うて、

鍋ばおれぇてねぇ、鍋の蓋(ふた)ば取ってみたいどん、

泥鰌の一匹もおらんちゅうもん。

「ありゃあ、今日はあげん沢山(よんにゅう)泥鰌の取れたとけぇ、

骨もなかごと溶けとっばい」て、若か者どま不思議がいおったて。

「あいどん、汁も余(あんま)い美味(うも)うなかない」

て、言いながら、啜(すす)いおったちゅう。

あいどんねぇ、

善ちゃんなさ、我が家(え)帰ってねぇ、

「鍋ば煮たてて、泥鰌汁ばい」て、言うてねぇ、

鍋の蓋を取ったつは、ほんな物の泥鰌汁じゃったて。

そうして、

善ちゃん方ん者(もん)は、

「美味(うま)か、美味か」ち言(ゅ)うて、食べたちゅう。

その経緯(いきさつ)はこうだったと、

仲間の鍋にねぇ、泥鰌もまあーだ死んどらん、

そけぇ豆腐の入(ひや)あってきたもんじゃい、

いっぴゃ泥鰌の冷たか所(とこ)の中ゃあ泥鰌の潜っとったちゅう。

そいで、

善ちゃん方でほんな泥鰌汁のできたちゅう。

そがんして持って帰ったて、いう話。

チャンチャン。

[五六九 泥鰌汁]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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