嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

村を流れる川上に兄さんの家(うち)があったてぇ。

その川の下(しも)には弟の家があったちゅうもん。

ある年ねぇ、

兄さんは昔からあった家じゃったもんで、

「家(いえ)の古うなったけん、家ば新築すっばい」

ち言(ゆ)うことになったて。

そぎゃんふうなことば聞いとったもんじゃい、

弟が兄さんの家(うち)にねぇ、

その、見物しぎゃ来(き)てみたて。

あったぎぃ、

仰山(ぎょうさん)材木の表(おもて)に積まれとったちゅうもん。

その材木ば見て、弟は兄さんに、

「この材木の木は何(なん)ちゅう木じゃろうか」

て、聞いたぎぃ、

兄さんが、もう鼻高(たこ)うして、

「こいなあ。こいを椎(しい)の木ちゅて、堅木の上物だよう」

て、言うて教えたと。

あったぎぃ、

こいば聞いた弟が言うのはねぇ、

「兄(あんじゃあ)ひとん、

何(なん)で椎の木でえ家(うち)を建っると。

椎の木で家ば建っぎばい、『悲しい(椎)悲しい(椎)』ていう、

悲しかことばっかい起こっぞう。

この木を川に早(はよ)う流して他(ほか)ん木で建てやーい。

まあーだ建てとらんやったけん、幸いじゃったあ」

て、言うて教えたぎぃ、

その話ば聞いて、

「ほんなこて建つん前じゃったけん、良かったあ」

て言うて、兄さんの早速、

川にその木ば流(なぎ)ゃあてしもうたて。

材木全部(しっきゃ)あ川に流しんさいたちゅう。

そうして、

松やら杉やらば切って来て立派か家を建てんさいた。

そいから一時(いっとき)ばかいしたぎねぇ、

今度(こんだ)あ、

弟が家ば建っちゅう話の

その辺(へん)の者(もん)の言いおんもんじゃい、

ありゃあ、弟も家ば建っごとなったばいなあ、

と思うて、

兄さんも行たてみゅうで思うて、行たてみたところが、

家ば建つ材木は

兄さんの川に流(なぎ)ゃあその椎の木ばあっかいじゃったて。

ありゃあ、

俺(おい)が流ゃあた木ば全部(しっきゃ)あどめ拾い集めて、

そいで家(うち)ば建っとやろうなあ。

自分には、こいで家建っぎ悲しかち言(ゆ)うて、聞かせたもんのて、

思(おん)めぇおったぎぃ、

兄さんの方、腹ん立って仕様がない。

そいで弟に怒鳴ったてぇ。

「人には、『悲しい(椎)』ち言(ゅ)うて、

あぎゃん悪かごと言うとって、

わさんな何(なん)ちゅうことかあ。

こいで建ておっ。

私(わし)が流(なぎ)ゃあた木で建ておろうがあ」

て、言うたら、弟の言うには、

「兄さんは悲しい(椎)どん、俺(おれ)は嬉しい(椎)」て。

「俺(おい)の家を建っこの椎の木は嬉しい椎の木」て。

同じ椎の木でん、こう言うたちゅう。

チャンチャン。

[五六〇 かな椎(類話)]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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