嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかーしねぇ。

墓原の側に竹林があったちゅう。

そいぎぃ、

墓原さい来てチョクチョクチョク春になっぎぃ、

竹の子の立つちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、

ある男がねぇ、

こりゃあ、竹の子の家(うち)にゃあ食いきらんごと立つ。

この竹の子ば取って売りに行こうと思うてねぇ、

竹の子ば袋いっぱい入れて担いで、

そうして売りに出かけたちゅう。

そうして、

町のほんに西も東も蔵(くら)ばっかいあるごたっ

長者さんの家に行たてねぇ、

「ごめんよう」て言(ゅ)うて、裏ん戸口から行たて、

「竹の子売りに来ました。上げます」ち言(ゅ)うて、やったぎねぇ、

そこん人が、

「ああ、あさんはどなたさんか知いまっせんがあ」

て、言うぎぃ、

「あんたあ、知んさらんでいい。

私の親戚はねぇ、ここん辺(たい)の太かお寺さんやら、

そいから庄屋さんも親戚。

そいから何処(どこ)其処(そこ)も親戚」て、

有名な所ばっかい数えあげて、

「親戚、親戚」て、言うたぎぃ、

そぎゃん立派か所(とけ)ぇ親戚のあんさっないばあ、と思うて、

「そいじゃ、遠慮なしに頂戴します」ち言(ゅ)うて、

そこん者は貰うたて。そいぎぃ、

「こりゃあ、少しばかいですが、

あんさんのお小遣いにしてください。少しばかいです」

とお金ばやんさもんで、

「いや、いいです」て、言うとば、

無理矢理にお金ば包んで差し上げたてぇ。

そいぎぃ、

「有難(あいがと)うございましたあ」ち言(ゅ)うて、

一時(いっとき)ばかい出てから、

しばらく行たてから、また立ち戻ってねぇ、

「あの、さきほど差し上げたあの竹の子は、

お墓の所に全部(しっきゃ)あどめ立った竹ん子でござんすけん」

て、こがんその竹の子売いにに来た男が言うちゅうもん。

そいぎぃ、

そこん家(うち)ん人は色真っ青なって、

「冗談のごと、

お墓に立った竹ん子を私ゃ食びゅうごとございません。

こりゃ、縁起も悪かけん持って行ってください」

て言うて、全部(しっきゃ)あ返しんしゃった。

「そがん言んさったぎぃ、持って行かんまらんなあ」

て、言うてから、その竹ん子ば持ってねぇ、

また今度(こんだ)あ、ズーッと竹ん子ば持って行きよったぎぃ、

恐ろしかそこも長者さんのごとして、

金持ちんごたっふうに、

ほんにあの、ここは金のあっところばいという所にねぇ、

その竹ん子ば持って行って、

「ごめんやあ」ち言(ゅ)うて、前んごと言った。

「竹ん子の余(あんま)い沢山(よんにゅう)立ったけん、

食いきらんけんが、こなたに差し上げに来ました」て。

「そいぎぃ、あんさんはいっちょん見かけたこともなかどん、

どなたさんでしょうかあ」

「あんさん、知んさらんでも良か良か。

私(わし)ゃ、あつこのお寺さんも親戚。

そいから、何処(どこ)其処(そこ)の長者さんとも親戚ばんたあ」

「そがん、良か所(とこ)とばかいご親戚ですなあ」

ち言(ゅ)うて、

そこん家(うち)者も信用して、

「そいぎぃ、遠慮なし頂戴いたします。

ぎゃん美味(おい)しかごたっ竹ん子」

て言うて、貰らいんしゃったちゅう。

そいぎぃ、

「どうぞ。どうぞ」ち言(ゅ)うて。

そこん家も、ほんにただ貰うわけにいかず、

「あなたのお小遣い、

こいちぃっとばっかいですが」ち言(ゅ)うて、追っかけて来て、

「取らん」て、言うもんば、お金くんしゃったちゅう。

そいぎぃ、

そん男はねぇ、

「有難うございましたあ。良かとこれぇ」

て、言いつつ遠慮しぃしぃ貰うて出かけたちゅう。

そいで、ズーッと行きおったぎねぇ、あったところが、

ありゃあ、ありゃ、言わんば良(ゆ)うなかあ、

と思うて、また立ち戻ってねぇ、

「あんさん、あんさん。

さきほど、あい差し上げた竹ん子は、

実は墓ん所に全部(しっきゃ)あどめ立った竹の子でござんすっ」

て、言うたぎもう、

またそこん者も顔色変えて、

「縁起の悪か竹ん子ばとても、戴くわけいかん。

罰かぶっ、

早(はよ)う全部(しっきゃ)あどめ持って行たてくんさい」

て、そこももう、血相変えて全部返(かや)あたて。

そいぎぃ、その男は、

「ホクホクやったあ」て言うて、

自分の家(うち)さ持ち帰ってさ。

そうして、

その竹の子は湯上(あ)がいて自分が「美味(うま)か美味か」

と食べたて。

そういうことです。悪賢(わるがしこ)か男じゃったて。

そいばあっきゃ。

[五七三 筍の使物]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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