嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

むかーしむかし。

ある所に、お爺さんがもう、のっぺら坊に人が良うしてもう

、人の良かとの通り過ぎて、ちいっと大馬鹿者のような、

お爺さんのおんしゃったてじゃんもんねぇ。

ところがさ、

その息子はほんに気の利いとったて。

ある日のこと、

「お爺さん、烏ば四、五羽捕まえてくんさい」

ち言(ゅ)うて。

そうして、

新聞で袋を大きかとば作って、

袋の中(なき)ゃあ烏ば閉じ込めてさ、

「お爺さん、今度(こんだ)あ雉子(きじ)一羽

捕まえて来てくんさい」て。

そいぎ

お爺さんは、

「はいよ」て、言うこと聞いて、捕まえて来んさった。

そして、その息子がすることにゃ、

雉子は手の左手にしっかと捕まえて、

「烏はいらんねぇ、烏はどうですかあ。烏売りです。烏売りです」

て言うて、触れ歩いたて。

そいぎぃ、口々に村の人達ゃ、

「ありゃ、ふうけ者(もん)の家の息子ん、

ふうけが家(え)の息子、息子。

やっぱい息子もふうけとっ。

雉子ば『烏』ち言(ゅ)うて、売って歩(さる)きよっ。

そいぎぃ、買(か)おうかあ」て言うて、

「これ、息子、烏を一羽くれ。これ、息子、烏を一羽くれ」

て、みーんな早(はよ)う売れてしもうて。

そいぎぃ、烏を買(こ)うて帰った者な、

袋ば開けたぎぃ、

「雉子て思うて買うたぎぃ、烏たい」

て言うて、今度は息子に、

「冗談(ぞょうたん)のごと、雉子と思うとったぎぃ、烏。

烏ば売っちゅう者のあんもんかあ」

て言うて、文句言うて来たて。

ところが

息子が言うには、

「『雉子ば売っ』ち言(ゅ)うて、売ったことの覚えはなか」て。

「『烏は良かったねぇ』て、小さな声でもなし、大声張り上げ、

「『鳥は良かね。鳥は良かったろうかあ』ち言(ゅ)うて、

誰(だれ)ーでん聞いてんござい。

誰ーでん知らん者ななか。

『烏は良かったろうかあ』ち言(ゅ)うたけん、

お前(まい)達のどがん文句言うたっちゃ、こりゃあ通じらんとよ。

烏ば買うたもん、そいで良かろうだい」言うて、

息子は言うたそうです。

で、いっぱい食わされんしゃったて。

そいばあっかい。

[五五〇 烏と雉子]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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