嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーし。

お寺に檀家から美味(おい)しそうなぼた餅がきましたあ。

「どうぞ、食べてください」

ちょうどそん時、

和尚さんが法事に出かけんばじゃったあ。

そいぎ和尚さんな、

かねてぼた餅ば好いとんしゃったじゃっもんねぇ。

そいぎぃ、

「これはねぇ、小僧や、ご本尊様にお供えしときんしゃい」

て言うて、出かけんさっ。

小僧さんも、そのぼた餅が美味(おい)しいそうだったので、

食べとうしてたまらんて。

一つぐらい食べてよかろうだーい、と思うて、

一つちぃ(接頭語的な用法、ツイ)食べんさったてぇ。

それが美味しかったて。

まあ一つぐらいいいだろうと思うて、もうたまらんもんじゃっけん、

またいっちょ瞬(またた)く間(ま)に食べんしゃったてぇ。

そいぎねぇ、

まあ、そうして

なかごと全部(しっき)ゃあ食べて仕舞(しみゃ)あいんしゃったてぇ。

和尚さんが帰って来(き)んしゃっぎ叱(くる)わるっばーい、

と思うて、

こりゃ、ご本尊さんの口にないば、餡(あん)こばつけておこう。

そうして、

ご本尊さんはものば言いえんさらんけん、

ご本尊さんの食べんさったごと言おう、と思うて、

小僧さんも悪知恵出(じ)ゃあてさあ、

ご本尊さんの口の周りに餡こばくっつけとったてぇ。

そけねぇ、和尚さんの帰って来んさいたてぇ。

そうして、

早速本堂に行ったぎぃ、

ご本尊さんの口の周りには餡こだらけじゃったてぇ。

そいぎぃ、

「小僧、小僧。これはどうしたことかあ」

ち言(ゅ)うて、呼ばれんさったぎぃ、

「はい、和尚さん。ご本尊様がぼた餅を食べておられましたよ。

全部(しっき)ゃあ食べられたあ」

て、言んしゃったて。

そうすっと、和尚さんは、

箒(ほうき)でポンと、ご本尊さんば叩きんさったぎぃ、

クワーンて、鳴ったて。

そいぎぃ、

「これ、これ、小僧。ご本尊さんは、

『食わん、食わん』と、おっしゃったぞ。」

て言うて、言んしゃったて。

小僧さんは頭をかかえて冷や冷やしとったぎぃ、

「いいえ。確かにお食べになりました。

そいで餡こがついています」て言うて、言い張ったて。

そうして、

小僧さんはねぇ、

「叩いたぐらいでわかんもんですかあ。

ご本尊様は、いっちょ水につけてみましょうかあ」

て、今度言うたて。

そうして、水ん中(なき)ゃあ、

池のあった所(とけ)ぇ抱えて行たて、

「和尚さんも来て見よんさい」

て言うて、ご本尊さんばつけたぎぃ、クタクタ、クタクタて言うて、

音をたてて沈みんさったてぇ。

そいぎぃ、小僧はねぇ、

「ご覧なさい。あのとおり、

『食った』と、おっしゃったじゃありませんかあ」

て、小僧さんが和尚さんに申し上げたたばい。

そいばあっかい。

[五三五 餅は本尊様]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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