嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

海に蝦(えび)がおったてぇ。

そいぎぃねぇ、山の鷲がちょうど羽根を広げて、

お昼休みしとったてよ。

そこに海の蝦が、ズーッと泳いでやって来て、

ああ、良か塩梅(んばい)柔らかそうな休み場があるー、

と思うて。

そうしてあの、

そこに鷲の羽根の上に腰掛けたてぇ。

「何て良い気持ち。フワフワすっとねぇ」ち言(ゅ)うて。

そうしたところに、

「ブルン」ち言(ゅ)うて、

「鷲の翼(つばさ)に腰掛けとっ者は、誰者(だれもの)きゃあ」

ち言(ゅ)うて、恐ろしか身を尖(とが)らかして、

鷲が、羽をバターつかせた拍子に、

蝦はアパーッて、吹き飛ばされた。

「ああ、恐ろしかったあ」ち言(ゅ)うて。

ちょうどその崖の下ん方は洞穴(ほらあな)じゃったちゅう。

その海の洞穴の所には、

また、なんと大鯰(なまず)が休んでいたのに

良か塩梅に太か松の木の枝のあると思うて、

枝だとばっかり思うて止まったちゅう。

そしたら、

「俺(おい)が鰭(ひれ)になんて止まっかあ」て、

今度も太か声のして、

「ハッハ、ハクション」て、鮫(さめ)までしたちゅう。

松の枝と思って止まったのは洞穴に隠れていた鯰の鰭じゃったて。

鯰が、ハッハ、ハクションてしたもんで吹き飛ばされた蝦は、

向こうの岩に腰をいやというほど打ちつけて、

そいから先は、

「腰の痛い、痛い」ち言(ゅ)うて、七日七晩、蝦は鳴きおったてぇ。

そいから蝦の腰はとうとう曲がったままになってしもたて。

そいばあっきゃ。

[四八二 大鳥と蝦(AT二〇一五、一九六〇、一九六〇J)類話]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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