嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

恐ーろしかそこん辺(たい)いちばんちゅう金持ちさんの

おんしゃったてぇ。

あったいどん、

奥しゃん達の暇の者(もん)のおんしゃった

ちゅうもんねぇ。

そうして、

「今日は節供じゃんもん。

あのお金持ちさんの家(うち)に、

連れ立って遊びに行たてみゅうかあ。

ご馳走してくんさいどん、わからんばい」

て言うて、いろいろその、考えてねぇ、

「ごめんください」ちて、四、五人遊びぎゃ行ったてぇ。

そうして、

立派か着物(きもん)どん、

もういっちょびら(タダ一ツノ晴レ着)どん着て、

皆がそこに行たちゅうもんねぇ。

そうして、いろいろ珍しか果物やら、お菓子やら、

沢山ご馳走になって。

そいからねぇ、

やっぱいお茶どん飲むだんになってからねぇ、

「奥さんがご一緒でんが、

指輪でん、宝石でん、沢山持っとんさっでしょう。

そぎゃんと、私達、一遍みせてください」ち言(ゅ)うて、頼んだて。

そいぎねぇ、

その奥さんのねぇ、

「私(あたし)も幾らか持っていますけれどう」て言うて、

ニコニコしてねぇ、

どいしこじゃい出(じ)ゃあきて見せんしゃったて。

そいぎぃ、

「奥さん。この中でさ、宝物の中でさ、

いちばん大事か宝物はどいですかあ」ち言(ゅ)うて、

奥さんに聞いたちゅうもんねぇ。

あったぎぃ、

その奥さんが、廊下ばツウツウツウて、

「ほら、こちらにお出でください」ち言(ゅ)うて、行きんしゃっ。

そいぎぃ、ゾロゾロゾロその奥さんについて行たぎねぇ、

窓ばサラーッと開けたぎぃ、向こうのお庭の砂場でねぇ、

その奥さんの子供が、

男の子と女の子と遊びよったちゅうもん。

そいぎぃ、その子どんばこうして指差してね、

「あれが、私のいちばん大事な宝物です」て、言いさいたてぇ。

そいぎねぇ、その遊びに来とった村の奥さん連中ねぇ、

どぎゃんばっかい良かとがいちばん大切かとや、

どぎゃんばっかいキラキラ光るとば見せてもらおうかにゃあと、

来とったぎぃ、

「子供ばいちばん宝物」ちて、見せんさったけんねぇ、

「ああ、ぎゃん大富豪て言わるごと、良か所(とこ)の奥さんの、

本当に宝物ていうとは、自分の子供」て。

「子供がいちばん宝物」て、言うことで、

見上げてね、反省してね、

「ああ、目の前の宝石てん、

或いは、あの、飾り物てんば宝にすんもんじゃなかなあ。

やっぱい子供が大事」て言うて、言んさっもんじゃあ、

ゾロゾロゾロ、こっちお出でんさい。

「こっちお出でんさい」て、言んさんもんじゃい、

ゾロゾロゾロ四、五人な、奥さん連中が、

あの、富豪の奥さんの後について行たぎねぇ、

一時(いっとき)通ってから、窓のあっ所さい行たてから、

窓をサラーッと開けて、庭ば指差ゃあてね、

「ほら、男の子と女の子とあそこに遊んでいるでしょ。

あの子供達が、私にとってはいちばん大事な宝物なんですよう」

て、言んしゃったて。

そいぎぃ、そけぇ来とった奥さん連中がねぇ、

どぎゃんばっかい見事なダイヤモンドだろうか、

どぎゃんばっかい見事な着物じゃろうか、と思うて、

想像しとったぎぃ、

「子供をいちばんの大事な宝物」て、言んさった。

大富豪て言わるる奥さんねぇ。

ほんに、そいば来とった奥さん連中が、反省したて。

「ああ、子供よいか大事な物はなか」て。

「子供を大事に育てんば、やっぱい我が我がにも、

子供がいちーばんの宝物だ」て言うて、

そいからねぇ、目の覚めたーあて。

そいばあっきゃ。

[四八四 宝較べ(類話)]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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