嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

もう大変東の村に骨接ぎの上手なお医者さんがおらしたてぇ。

そいどん、

西ん村にもさ、どぎゃん難しいか骨接ぎでんできる、

もういちばん上手なお医者さんがおんしゃったて。

その二人のお医者さんが、ある日ねぇ、もう自分の自慢話ばして、

一緒に集まいんしゃったて。

そして、

東のお医者さんの言んしゃっには、

「私は目ばつぶっとったてちゃ、

手で足でん折れたとぐりゃあじき接いでみすっ」

て。

そいぎぃ、

西のお医者さんな、

「私(わし)ゃさい、肘(ひじ)の折れたのも自信があるよ。

もう朝飯前」て。

「どぎゃん太か手術でん、じきしてみすっ」て。

そいぎ

東の、

「私(わし)がやっぱい日本一だよ」

そいぎぃ、西のお医者さんも負けじぃ、

「いいえ、いいえ。私が日本一て、誰(だい)でん人の言いよんしゃ」

そいぎゃん言うて、言いおんしゃ。

なかなか、どっちが日本一てつけようのなかったて。

「あなたが日本一。日本一の二(ふちゃ)人(い)もおってたまらん。

そいぎぃ、腕較べをいっちょしてみんばらんねぇ。

腕較べしゅうだい」

て、言うことになったそうです。

「腕較べをすっことにしよう」

「そうしょう」て、じき決まった。

「そいぎぃ、見物人もおらんことにはねぇ。

審判ばしてもらわんばらん」ち言(ゅ)うたいどん、

もう、そがん言いよっうち、

ワンサワンサと沢山(よんにゅう)見物人の来たちゅう。

そして、

「東の方のお医者さん、あんたから始みゅうかあ」て、言うたぎぃ、

そいぎ西のお医者さんの手ば、ガタッて切ったぎぃ、

血のビャーッて散った。

そして、東のお医者さんは急いで、その手をペタリと接いだ。

「おりょりょ(おや)。

ほんなこてぇ、手ば握ったい開いたいしてんござい。

うまいとっこ接げたのう」ち言(ゅ)うて、

皆が感心しんしゃったてぇ。

そぎゃん言いよおっ間(ま)もなく、

西のお医者さんは、東のお医者の腕がバザリーと、

また切んしゃった。

そうしてまた、ベタリと。

まあ、ほんなこて早いも早いも、

ほんに皆見物人、ビックイしとったて。

そいぎぃ、

「手ばしたもん。今(こん)度(だ)あ、足ばしてむうかあ」

て、言うことになって。

そいぎぃ、

「今(こん)度(だ)あ、西のお医者さんから始みゅう」ち。

そいぎぃ、東のお医者さんの足ば、ハッて切っ。

そうしてからもう、ハッていう間(ま)もなかごたっ

ピタリと接ながった。

「ありゃあ、歩いてんござい」

「歩かるっ」

そいぎ今度(こんだ)あ、

「代わってしゅう」て言うて、東のお医者さんは、足をバサリと。

ハッという間(ま)に、またペタリ。

見物人は、

「はあ、大したもんだ。ああ、ほんに大したもん」て言うて、

「どっちが日本一。甲乙はつけられん」

て、ワァワァ言いよったて。

「そいどん、日本一は二人いては困る」

て、お医者さん達は言い出(じ)ゃあたて。

そいぎぃ、

西の医者さんが、

「代わいばんこにすっけん、どっちが上手じゃいわからんたい」

東のお医者さんも、

「そう、そう。そうだよ。今度あ、一緒にやろう」

「そいぎぃ、何(なん)から始みゅうかあ」

て、言うことになって、

「そいぎぃ、首がいちばん大事かとこじゃっけん、

首ば切ったこんないちばん良かあ」

て、言うことになって、

「そいぎぃ、『やいこのましょ(物事ヲ始メル合図)』て言うて、

首ば一度に切って

接ぐごとにしようかあ」て言う。

そいぎぃ、

見物人の中から、

「首ば落としたこんな死のうだい。人殺しだよ」

て、言う者もあったて。

「あいどん、じき接がっけん、良か良か」

そいどん、見物人なビックイしとったいどん、二人の医者さん達は、

「わけなか、わけなか。じき死んでも生き返っ」

て言うて、自信満々で、

「そらっ」ち言(ゅ)うて、

お互いの首をコロッて、切んしゃったぎぃ、

首はコロッと落ちて、我が達の体もグニャっと倒れたて。

そいぎねぇ、見物人は大騒ぎになったて。

二(ふちゃ)人(い)どめ死んでさ、

誰(だーい)も接ぎゆっ者なおらんやろう。

「あら、あら、あら。

『手術の名人、名人』て、言いよった者の

二人どめ死んでしもうてから、こりゃあまた、どうもこうもならん。

こりゃあ、どうしようもない。

どうもこうもならんたい」

て、ウロウロして大騒ぎしたけど、

日本一を争うて二人の医者さんは死んで、それっきりじゃったて。

そいばあっきゃ。

[四八一 どうもとこうも(AT六六〇)]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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