嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

借金を負うとっ男が二人もおったてぇ。

そいぎぃ、

どうしても払いえんから、二人が相談して、

「ある晩一緒に、夜逃げしゅう」

て、決めたて。

そうして、

夜道をドンドン、

「そりゃ逃げろ。そりゃ逃げろ。

夜が明くっぎぃ、追いかけて誰(だい)じゃい来(く)っぞ」

て言うて、

話どんしながら夜道ば急いで行きよったて。

「金、金、金」て、もう金のことばあっかい、

二人ともお金がいちーばん心に残っとったて。

そいぎぃ、

一(ひと)人(い)の男が言うことにゃ、

「そぎゃんしてさ、

二人歩きよってそけぇ大金の落ちとってすっばいのう。

そいば俺(おい)が拾うぎぃ、どぎゃんすっと思う」

て、相手に聞いたて。

そいぎ一

(ひと)人(い)の男が、

「俺にも半分なくりゅうだい」

て、いい気分で言うたちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、

もう一方の男は、

「そぎゃーんふうけ(馬鹿)たことがあんもんかあ。

俺が見つけて拾うたもん、俺がとくさい」

こう言うたぎまた、

その一緒の男が、

「一緒に行きおって、

見つけたとは連れにも半分くるっとがあたい前じゃろうもん。

そぎゃにまで欲深かとは、畜生と同しこと。

一緒には行かれん」

て、言うごとして、ちぃ(接頭語的な用法、ツイ)言うたぎぃ、

拾うぎにゃあ、ていう男が、

「何(なん)か、畜生か。何が畜生か。

もう一遍言うてみぃ」て言う。

そうして

とうとうつかみかかんばかい二人の喧嘩やったて。

そいぎぃ、余(あんま)い道端で喧嘩しおったぎぃ、

そこに後ろから来る人が追いちいて、

「あさん(アナタ)達ゃ、何(なん)でまた、

若(わっ)か者(もん)のそぎゃんに酷う喧嘩しおっとう」

て言うて、聞きんしゃったて。

そいぎぃ、

「まあまあ、まあまあ、そぎゃん喧嘩すっぎいかんばん。

静かにせろ。話合うぎわかっこと」

ち言(ゅ)うて、

通りかかった男が、

「私が仲裁しゅう。

どういうわけじゃい、言うてみぃー」

と言うて、聞いてみたぎぃ、

一人の男が、

「我が拾った金ば『俺(おれ)にゃくれん』て、この男が言う」

て。

そいぎぃ、

もう一人の男が、

「俺(おい)が拾った物(もん)は、俺がとじゃろうだい」

て言う。

そいぎ

仲裁に入(はい)った男が、

「そがんことで喧嘩しおったとかーい」

て言うて。

そいぎぃ、

「そぎゃん、一緒に来た者(もん)は、分くっとが当たい前じゃろうだい」

「いんにゃ。分けんくさい」て、言うもんじゃけん、

もう、またつかみかかろうで喧嘩が始まろうでしたから、

その通いかかった男が、

「まあ、まあ、待て。ほーんに聞きもされんごたっ。

そいぎぃ、

その拾った金ば出(じ)ゃあてんのう」

て、言うたら、二人は、

「その金は、まあーだ拾うとらん」て言う。

「なあーんだ、拾うとらん金のことで、

ふうけた(馬鹿ナ)喧嘩ばお前達しおったかあ」

て。その通りかかった男は、

「ぎゃーん、あきれたこては初めて出会うたあ」

て言うて。

そいぎ二人も、もともこもなか話に気づいて、

頭かきかきまた、仲良く出かけて行ったちゅうよ。

そいばあっきゃ。

[四三六 金を拾ったら(AT一四三〇、一四三〇A)〕

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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