嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

大工と樵(きこい)と反物(たんもん)屋さんが村におったて。

そうしてねぇ、

どころが、この三人とめ、

もう評判の怠け者じゃったちゅう。

そいぎねぇ、

怠け者じゃったもんじゃい、大工が言うことにゃ、

「ほんに、金槌どま使わじぃ、鋸(のこぎり)どま使わじでんが、

何(なん)でん柄(え)のもう、スルスルスルーって、

でくっぎほんにー良かいどんにゃーあ」

て、あの大工が言いよったて。

もう今度、樵ちゅうぎねぇ、

「木ば倒(たわ)す時ゃ、ほんに骨折いよっ。

もうゾウコンゾウコンゾウコン、もう数どま数えきらんごと、

鋸(のこ)引きちゅうて鋸ば引かんばらん。

あぎゃんきつか仕事はなか」て。

「もう、ほんにーもう、何(なん)か人間の油ば搾らるっごたっ。

そいけん、

鋸どま使わじも木のザワーッて、

倒わるっごたっとのあっぎ良かいどーん」

て言うて、言う。

そいぎぃ、

この反物屋も怠け者で、

「私(わし)ねぇ、ものさしば持って来て、

反物ばヒャーッて測(はか)い、ヒャーッて測い年中、

両方の右と左の手ば伸(ぬ)びゃあたい縮めたい、

伸びゃあたい縮めたいせんばらん」て。

「ほんにきゃあなゆっ(クタビレル)」て。

「あぎゃんことせじもう、

わが方から反物ば、こう持ってヒョロヒョヒョローって、伸びて、

エプロンじゃったあて、コロッとわかっごたっぎ良かいどん」

て言うてねぇ、もういい加減な話どんばあーかいしよったて。

三人とめ揃いもそろって、怠け者やった。

とっころがねぇ、

この大工にもさ、癖のあったちゅうもんねぇ。

「大工はねぇ、ほーんに嬉しかぎね、

サラサラサラって手を叩く」て。

「じき、嬉しか時ゃあ、あの大工はもう手を叩くもおんねぇ、

ていう癖のあった」て。

「そいからねぇ、大工は手を叩くどん、

樵はねぇ、チョッと考え物ばすっ時はねぇ、

じき、鼻ばこがん撫(な)ずっ癖のあっ」て。

「鼻ば、じき、樵は撫ずんもんねぇ。もう癖のあっとに、

じき、鼻さい手がいくさい。手ばやって」言うて、

「癖は直らんとやろうねぇ」て言うて、言いよったて。

そいぎねぇ、

今(こん)度(だ)あ、

「反物屋はねぇ、膝ば叩く」て。

「商売のうまいとこいって、

これはぎゃしこ(コレダケ)だと反物ばいうと、

高(たっ)か値段ばふっかけて売ろうですっぎぃ、アッ」て、

「じき、膝ば叩く癖がある。

そいが叩く癖ばせんぎ良かいどんも、癖んちいとっけん、

じき、えぇとこ商談のまとまっぎぃ、

じき、パッて、膝ば最適ぞ」

て、こう叩く癖のあって。

三人とも、良か癖ばあーっかい持っとって。

あったぎねぇ、

ある時さ、ちょうどそぎゃんことのあったてじゃんもんねぇ。

三人とめねぇ、

「今日(きゅう)どまいっちょう、

旅ちゅうもんばしてみゅうかあ」

ち言(ゅ)うて、出かけたて。

そうして、

宿屋に着いたぎねぇ。

そいぎぃ、樵さんなねぇ、あの、癖ばじきちぃ出(じ)ゃあてぇ。

手ばもう、

ほんにあの、きれいか女(おなご)のお酌しぎゃ来たぎぃ、

「こりゃ、良かった」ち言(ゅ)うてから、

ピシャッて叩いたぎねぇ、

その手のペターッて引っ付(ち)いてから、

そいから先ゃ離れんてじゃんもん。

そいからねぇ、

今度はねぇ、大工さんのさ、

鼻ばこうしんしゃったてぇ。

あったぎねぇ、

鼻の伸びっこと伸びっこと伸びて、

チョッと恥ずかしかごとちい伸びたてぇ。

そいから、反物屋さんな、

その女(おなご)を見てねぇ、相槌を打ってね、

足ばもう膝ん上、パッて下ろしんしゃったぎぃ、

足の痛(いと)うなって、

ポキポキちぃ折れたてばい。

こりゃねぇ、三人が三人とめぇ、揃うて怠け者じゃったもんじゃい、

神さんの罰(ばち)ば、その、与えんさったて。

そうーして、

医者さん行たても、何処(どけ)ぇ行たても、

三人とめぇ、その罰のきて、あの、片輪になってしみゃあさいたて。

チャンチャン。

[四三一B 三人の癖(AT一五六五)(類話)]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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