嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

二人の男が、ズーッと旅して行きよったてぇ。

そいぎぃ、ズーッと歩いて行きよったぎぃ、

都に近(ちこ)うなった所でねぇ、三日目にさ、

そけぇきれーいか洋服の落ちとっちゅうもん、道に。

「あらー、俺(おい)が見つけたけん俺がとくさい」

て、一人(ひとい)の男が言うたて。

そいぎぃ、

もう一人の男が手に拾うて取ったちゅうもんねぇ。

「俺が手に取ったけん、俺がとくさい」て。

「いんにゃあ。俺が目にいちばんに目(め)ぇかかったけん、俺がと」

「いんにゃあ。俺が拾うたけん、俺がとう」

ち言(ゅ)うて、恐ーろしか、あの、道の真ん中で

喧嘩しおったちゅうもんねぇ。

そこに、

向こう方から小(こま)ーか小男の、

またこの人も、旅ばしおったて。

そうして、

「お前達ゃ、道ん真ん中で

俺が遠か所(とこ)っからでん聞こゆっごと

何(なん)てじゃい言いよっとが、何(なん)て言いおっとかあ」

て、聞いたて。

そいぎぃ、

「こけえ、ぎゃんとば拾うたいどん、俺が見つけたけん、

俺がとくさいねぇ」

て、言うたて。

まいっちょの男は、

「いんにゃ。俺が手に取ったけん、俺が拾うたけん、俺がと」

て、両方どめどっちでん譲らんて。

そいぎぃ、

その小男は、

「そんないば、一(ひと)人(い)ずつ着てみっぎ良かあ」

て言うた。

一人の男が着てみたぎぃ、

そいぎもう、

余(あんま)い小(こも)うして着られんちゅうもんねぇ。

「あんないば、こん人の目(め)ぇかかった男の着てみっぎ良かあ」

ち言(ゅ)うて、着せてみたぎぃ、

こいもまた、

「余い小うしてとても着らるっどころじゃなか」て。

そいぎぃ、

その男が、

「そんないば、私(わし)が着てみゅうかあ」

ち言(ゅ)うて、着たぎぃ、良か塩梅(んあんばい)じゃったてぇ。

そいぎぃ、

その男が言うには、

「神さんなほんなこと私(わし)に授けてくんさったとばーい。

私(わし)に、『着れ』ち言(ゅ)うて、

こけぇ落としとんさったとばい」

て言うと、

その小(こま)ーか服ば着て、

ドンドン向こうさい行ってしもうたちゅう。

そいばあっきゃ。

[四三六 金を拾ったら(AT一四三〇、一四三〇A)(類話)]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

標準語版 TOPへ