嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

力(りき)さんていうて、

恐ろしか力の強かとの

往還に石屋さんばしよんさったと。

そいぎぃ、往還なしょっちゅう

殿さんの駕籠(かご)に乗って通んさっちゅうもん。

「下に、下に」ち言(ゅ)うぎぃ、

折角石ば刻もうでしおっぎぃその、

土下座して頭ば下げてお礼せんばらんて。

殿さんな良かにゃあ。

もう、おどまごっといお礼どんばかいしおらんばん。

殿さんにいっちょなってみたかにゃあ、

と思うてねぇ、力さんのさ、神さんに、

「私(あたい)ば殿さんにしてくいござーい」て、

頼みんしゃったて。そいぎぃ、

「良かろう」ち言(ゅ)うて、

神さんのじき石屋の力さんばさ、

殿さんにしてくんさったちゅうもん。

あいどん、考えよったぎねぇ、家来どめ聞いたぎぃ、

「殿さんな毎日毎日、

お天道さんの日の出ば手ば叩(たち)ゃあて、

もう丁寧に拝みんさっ」て言うて、

家来が話(はに)ゃあて聞かせたちゅう。

「そがんやあ。そいぎぃ、

殿さんよいかお天道さんが偉かとない。

あいば(ソレナラ)、こりゃ、

殿さんよいたお天道さんにしてもらおう、

と思うて、また、神さんにさい、

「神さん、神さん。俺(おれ)はさ、

お天道さんにしてくんさい」て、頼んだて。そいぎぃ、

「良し、良し」ち言(ゅ)うて、また聞いてくんさったてもんねぇ。

そいぎぃ、力さんな石屋さんばやめて、

お天道さんになって、空におったちゅう。

あったぎねぇ、真っ黒か雲のさい、

ムラムラやって出て来て、

下ん方の景色どま見えんごとひっ隠(かき)いてしもうたちゅうもん。

「ありゃりゃあ、困ったにゃあ。

そいぎぃ、お天道さんよいかもう、

雲がまっと偉かったにゃあ。

やっぱい雲が良か。

私ゃ今度(こんだ)あ雲にしてもらおう」ち言(ゅ)うて、

今度また頼んで、雲になしてもろうたちゅう。

そうしてねぇ、

空の上ばフワフワ、フワフワ雲になって、

あっち行きこっち行き、

フラーフラーリちゅうて、散歩しおらしたて。

あったぎねぇ、

何処(どっ)からじゃい目(め)ぇかからんどん、

風のピューピューちゅうて、

吹いて来たてじゃっもん。

そいぎぃ、太か雲に乗っとらしたいどん、

その雲なちぎりちぎりに吹き飛ばさるっちゅう。

ありゃあ、困ったにゃあ。

ぎゃん吹き飛ばさるっぎぃ、

雲よいかも風が強かたい。

風が偉かばい。風よいか良かとはなかあ。

そいぎぃ、風になったがましち、

こう思わしたちゅう。

あったぎねぇ、

また神さんに頼んで今(こん)度(だ)あ、

風になったてぇ。そいぎぃ、

「俺(おい)がもう、

いちばん世の中では強かとぞ。

俺よい強かとはおらんぞう」て言うて、

もう空いっぴゃあ西ん果てから北ん果て、

南、東て、もう恐ろしゅう

吹きまくって歩(さる)きおったちゅうもん。

風になってねぇ、力さんの。

そいぎねぇ、ところがねぇ、

峠にさ、太ーか石の、道の横にあったて。

そいぎぃ、ありゃあ、

あの太か石も吹っ転ばきゃあてくりゅうど思うて、

風のねぇ、ビュービューやってそれ吹きつけたちゅう。

力さんの風が。風になっとっもんじゃい、

吹きつけてみって。

精一杯(せいいっぴゃあ)強か風ば起こして、

ビュービューと、吹きつくいどん、

その石の太かた、

ごっといとでんせんてじゃ(ビクトモシナカッタト)。

そいぎぃ、風になった力さんが考えたて。

今度じゃろどん、今度吹っ転ばらきゃあてくるっ、

て吹いても、びくともせんて。

そいぎねぇ、つくずく考えらしたちゅう。

「俺が石屋ばしおった時ゃにゃあ、

あぎゃん太か石でん、コツコツコツ、

カチカチカチて、刻むぎぃ、

小(こう)もにゃあて仕舞いよったとこれぇ、

何事なかったとこれぇ、

風になっても同しことじゃったあ。

あん石の動かせん」て。

そいぎぃ、ほんなこて偉かとはさ、

元、俺(おい)が仕事の石屋さんが、

いちばん偉かとばい、て、こう案じつかしたちゅう。

そいぎぃ、神さんに行たてばい、

「神さん、神さん。

風も強かと思うとったいどん、

ほんなことは石屋さんが、

いちばん強かごたっけん、

私を元の石屋ににゃあてくんさい。

石屋さんがやっぱい良かったあ」て言うて、

また頼んでねぇ、元の石屋さんにならしたちゅう。

我が仕事がいちばん偉かったと。

それ、力さんなやっと我が仕事が偉(えら)うして

良か仕事やったて思(おめ)ぇつかしたちゅう。

そいばあっきゃ。

〔三八〇 土竜の嫁入(AT二〇三一、cf.AT五五五)(類話)〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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