嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

山のお寺のさあ、

和尚さんが本山の方に行(ぎょう)に行きんさったて。

そいで、そがんとき限ってねぇ、

檀家の家(うち)で、

周りは金持ちさんの家(いえ)の

爺ちゃんが死にんしゃったちゅうもん。

そいぎぃ、小僧さん達は、

和尚さんの行きんさっ時ゃあ、

「あとは大丈夫です。ごユックリ」ち言(ゅ)うて、

送り出しとって。

「ありゃーあ、

そこの大家(たいか)のお爺さんの

亡くなったっちゅうて来たいどん、

お葬式に行かんばらん。こりゃ困ったにゃあ」

昔は都からこっちさん来(き)んさるでちゃあ、

テクテク歩(あゆ)うだい、

駕籠(かご)に乗ったいして、来おんさって、

そしてお葬式には間に合いんさらん。

「こりゃ困ったにゃあ」て言うた時、

子供の気の利いたとが、

「兄弟子よ、私(わし)らも衣(ころも)着とんもん。

そがんお葬式ぐりゃあ出しゆっ。

兄弟子、お前(まい)、

和尚さんの代わりせい」て、言うたから、

「そうだなあ。君の手前しわえんと言わるんもんなあ。

そいじゃ、真似してしようーかあ」て言(ゆ)うて、

和尚さんの衣どん借って、

このご大層に小僧さんたちの二、

三人も連れて、兄弟子が出けたちゅう。

そいぎねぇ、いろいろお葬式の段になって、

まずは引導渡しせんばらん。

困ったにゃあて、思うて考えおったぎぃ、

チョッと和尚さんのとばまっと良(ゆ)う、

やっぱい教えてもろうとかんばらんやったあ。

あいどん、和尚さんの位のことは、

おどん(俺)の身分で教えんさい、

て言われじぃ、習わん経ば急に言わんばらん。

つらいなあーて。内心ほんに嘆きおったけど、

もうここまで来てからジタバタしちゃ及ばん、

と思って、そいで、和尚さんになりすまして、

その小僧さんは引導渡すことになった。そいでまず、

「それ思んみるにー」

(そいから、何(なん)とかの石何(なん)で

包むっていうとば、

この言葉ば私うっ(接頭語的な用法)忘れとってですよ。)

ついでに、

「それ思んみるにー」て言うてから、

何(なん)てろ、石(せき)とか石(いし)とか言うて、

そしてその次は、

「小僧の褌(へこ)が良かろう」て。

「それ思んみるにー、小僧の褌が良かろう」て、

そこまで言うたら、

三人来とった小僧どんがね、

「和尚さん、和尚さん金する股する。

和尚さん、和尚さん、

金玉もってづくにゅう(大入道頭)になっ」

そいでお葬式はすんだって。

「見事に私(わし)どんお葬式ばしーえたあ」て言うて、

お布施どんは沢山(よんにゅう)う包んであって、

「我がどんが、がんしたお葬式ば出しえたけん、

こりゃ我がどんが貰(もろ)うて良かばい」て言うて、

そいから先ゃあ、もうお金ばね、

手にして、もう兄小僧も、

そいから小(こま)んか小僧達も大変喜んだて言(い)う。

チャンチャン

〔三八一 俄か和尚(類話)〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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