嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかし。

大きな油屋があってじゃんもん。

そこに年の若(わーっ)か女中さんが、

山の村から奉公にやって来んさったてぇ。

その女中さんは、礼儀作法も何(なーん)もかんも知らんもんやっけん、

女将(おかみ)さんな、あの女中は良(ゆ)うしつけんばにゃあ。

困ー、何(なん)でんもの知らん、と思うて、

「ねぇ、あんた。こら、第一、

家(うち)お客さん相手の商売じゃんもんねぇ。

そいけん、お客さんにゃ丁寧にものば、言葉ば言わんばよう。

言葉をいう時ゃねぇ、

『お』の字ばつけんしゃい。丁寧になっごと、

『お』の字ばつけんばよう」て言うて、教えとんしゃったて。

そいぎぃ、ある日のこと、

問屋の主人がその油屋に来たて。

油屋がその問屋から油ば買いよったもん。

その問屋から仕入ればっかいしゃったその問屋さんが来らしたて。

そいぎぃ、女将さんは、

「丁寧に扱わんばらんけん」ち言(ゅ)うて、

立派(じっぱ)か掛け軸ば床の上に掛けとかんばにゃあ、と思うて、

「こら、女中。この掛け軸ばさ、

座敷に掛けてくんしゃい」て、言ったら、

「はい」て、言うには言うたいどん、その女中が言うには、

「おとこの上にものっても、

よろしゅうございましょうかあ」て、

言うたけん、女将さんな急におかしゅうなって、

「こら、こら。あきれてものも言えん。何(なん)もかいも、

『お』の字をつくっもんがあっかあ。

何にもかんにも

『お』の字ばつくっぎおかしかこともあっとばい。

そぎゃん『お』の字を何にもかんにもつくっもんじゃなかあ」て、

今度は言んしゃったて。

そいぎぃ、今度(こんだ)あ、

裏の納屋で漬物つくっ段になったて。

そいぎ女中さんが言うことには、

「女将さん。けの中(なき)ゃあ、

みんな漬けてしもうたですよう」て、言うたけん、

「もう開(や)ーた口ゃ塞(ふさ)がらんじゃったあ」て。

「教ゆっとは難かしかにゃあ」て、

女将さんの言うてクックークックー笑いおんさった。

そいばあっきゃ。

〔三六八 鶯言葉〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

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