嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

暗闇の夜でんさい、

その橋ん所だけは人の困らんごと、

ポーッて明るかったちゅうもん。

そいぎぃ、

「そこん所【とこ】にはねぇ、

確【たし】きゃあ、

見て見事な宝の埋まっとっ。

宝の埋まっとっけん、

その光いで明【あっ】かとばーい」て言う、

そのへんの噂じゃったちゅう。

そいぎぃ、そぎゃん噂が立ったぎぃ、

ある恐ろしか欲ん深か男のおってさい、

そいば掘い当てて、

そうして我が儲けしゅうだい、

て思うて、その橋ん際【きわ】はドンドン、

ドンドン、掘いおったちゅうもん。

そいどん、一週間掘ったてちゃ何【なーん】もなか。

何【なん】いっちょでん出てこんけん、

もう止めよう、で思うて、

まあ、あと一日掘ってみゅうだーい。

そいからもう止みゅうだーい。

何【なん】もなかぎぃ、て決めて、

欲深か男が掘いおったちゅうもんねぇ。

ところがさい、そこの近所ん辺【にき】に、

また意地悪な人がおったちゅうもん。

そうしてさ、

我ーがキラキラする箱ば良かとば

持っとらしたちゅうもん。

そいぎぃ、そいばねぇ、

その橋の側に埋めて置いて。

そいで、この間お祓いしたいどん、

こりゃもったいなか、

我がいっちょ持った宝けん【宝ダカラ】これに似た

キンキラキンのとば作って、

そいぱ、我が家【え】の宝物に似せたとば、

埋めとってみゅう。

そいぎぃ、あすこば掘いおっとの嬉しゃすっばん。

見て見事と、と思うて、

その意地悪か男が、

我が家【え】の宝物の偽物【にせもん】ば、

橋の反対側に埋めとったちゅう。

そいぎねぇ、橋に宝ば掘りおる男に、

「あの、宝物はあったかん」て、聞いたぎぃ、

「うぅん。宝物は何【なーん】もなかったあ」て、

言うたちゅう。

そいぎぃ、

その偽【にせ】の宝物ばん埋めたとはさい、

橋の反対側じゃったちゅうもんねぇ。

そいぎもう、

我が宝物ば埋めた男は偽の

宝物ば反対側に埋めたもんじゃ、

「お前【まり】ゃあ、

そっちん方ばあっかい掘いよったけん、

何【なーん】も宝物の出てこんじゃったないば、

反対の方ば、

あっち側ば掘ってみゅうでちゃ

思わんじゃったかーい」ち、その、

意地悪か男の言うたて。

「ありゃあ、反対側ば掘ろうち気は、

何【なーん】も起こさじぃ、

こっち側ばあっかい掘いよったあ」て。

「あいば、反対側ば掘ってみっぎぃ」ち、

言わしたけん、

「そうのう【ソウデスネ】。

そいもそぎゃんのう」

反対側は掘いよったけんが、

なかっとろうかなあ、と思うて、

橋の反対側ば、

今度は掘いよったらしかちゅう。

そいぎぃ、カチャーッて音のして、

何【なん】じゃい、

宝物のごたっとの硬ーかとの音のしたて。

ありゃあ、こいが宝物で、

こいであの橋の光って、

何時【いつ】ーでん日の暮れんごと、

ポーッと見ゆっとたとばいにゃあ、と思うて、

そいば掘い当ててみたぎぃ、

立派か何【なん】じゃい壷の出てきたちゅうもん。

あらー、ぎゃーん良か宝物の埋まっとったあ、

と思うて、こいが闇夜でん光いよったじゃろう。

ぎゃーん良か物【もん】な滅多になかったあ、

と思うて、その男は大事に抱えて、

意地悪か男に、

「お前【まい】さんの、

『反対側ば掘ってみろーう』て、

言うてくいたけん、

お陰で良か宝物ば掘い当てたあ」ち言【ゅ】うて、

持って来【き】んしゃったて。そいぎぃ、

「良かったねぇ」とは言ったが、

ありゃ偽物ば掘って嬉しがっとると、

北【ほく】叟【そ】笑【え】んどったて。

そうして、

その意地悪か男が我ーが

本物【ほんなもん】ばなやあー所【とこ】

【シマッテイルトコロ】ん方ば見てみたぎぃ、

本物ばそけぇ埋めとったもんじゃい、

後からビックイしたちゅうもんねぇ。

ああくそ、今更、ありゃあ、

俺【おい】が宝物じゃったとは言わーれず、

チョッと困った、ち思うて、

悔みおったと。

そいからも、そこの橋は、

何時【いつ】ーまっでん

夜の暮れたてちゃ明【あこ】ーう人の顔の

見るっごと明【あっ】かったちゅう。

そいけん、皆【みんーな】があすこの橋ば、

「夜明け橋」ち言いおった。

その宝物の掘い出【じ】ゃあても、

まあーだ明っかったちゅう。

〔一七六  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P453)

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