嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

むかーしむかし、大昔。

もう花園のエデンていう花園のあったてぇ。

天国のごたっ花園やったて。

ここにはねぇ、夏でん冬でん、

何時【いつ】ーでん天気の春のごと

良か塩梅【んばい】な良か日和ばっかいで、

いっぱい咲きよった。

モチノキには餅の実、

パンノキにはパンの実の生ったいしてねぇ、

もうそこは天国じゃったて。

その花園にねぇ、

アダムちゅうととエバていうとが住んどったあてよう。

この二人は、また仲良うしてね、

何時【いつ】も鬼ごっこしたい、

かくれんぼしたり、もう何不自由なし、

天気はいいし、もうとても仲良く遊んどった。

あったぎねぇ、

二【ふた】人【い】余【あんま】いもう、

仲良かとばジーッと見おん者のおったて。

そりゃねぇ、蛇じゃったて。

蛇は誰【だい】からでん嫌われてばい、

いっちょん人の寄いつかんじゃったけん、

この二【ふた】人【り】ば羨ましゅう思うとったてぇ。

そうして何【なん】とか困らせてやろう、

と思うてねぇ、その花園の真ん中に、

もうー枝ば折るっごと、

きれいか桃の生っとったちゅうもんねぇ。

そいをアダムていう男に、

「こいを食べてんしゃい。

美味【おい】しかよう」て言うて、

勧めたて。そいぎアダムはねぇ、

「いんにゃあ。これは食べられん」て。

「神さんから何時【いつ】ーでん、

『この実だけは食べるではないぞう。

この実は食べちゃいかんよう』て、

神様から言うて聞かせよったけん、

そいけんこの実だけは、

決して食べません」て言うて、

「あの、神様から言い渡されたことを守ります」て言うた。

「食べません」と言うと、蛇もねぇ、

神さんも余【あんま】い美味かけん、

お前【まえ】達には食べてちぃ【接頭語的な用法】死なん、

と思うて、そぎゃん言んしゃったと。

「ぎゃん美味しか果物をほかになかとこれぇ」て、

ぎゃん言うて、誘うちゅうもんねぇ。

うまく騙すて、そいぎぃ、

「あの、そんない」ち言【ゅ】うて、

ヒョッとねぇ、手を取って、

その、桃を食べてみたぎ美味しか美味しか。

頬【ほお】っぺの落ちっごと美味しかったあ。

そいぎねぇ、

「ぎゃん美味しかとは初めていただいた」ち言【ゅ】うて、

「ああ、お友達も、エバを呼ぼう。

これ、エバさん、エバさん」ち言【ゅ】うて、

じき跳んで来た。

「これ、この桃の実を食べてんしゃーい。

美味しか美味しかあ。

もう頬っぺの落ちっごと美味しかよう」て言うたら、

エバも、

「この実は食べていけないように、

神様から言われたんだろう」と、

言ったけど、

「いんにゃあ、かまわん。

神さんもねぇ、私【わたし】達が食べてしまう、

と思うて、あんなにおっしゃった。

私は食べたよ」て言うて、

エバさんにもアダムが誘って食べさせた。

そいぎエバもね、目は丸うして、

「こりゃ美味しかなあ。

美味しい果物なあ」て言うて、

食べてしもうて、

「ご馳走さま」と、言ったかと思ったらねぇ、

そのエバはねぇ、

頬を真っ赤に染めてねぇ、

アダムをジーッと見て、

「恥ずかしい。恥ずかしい」て、

逃げ出したて。

今まで心は何も疑いを持たじぃ、

いろいろな余分の考えは何【なん】にもなかったけど、

自分の姿を見ると、恥ずかしがって、

「恥ずかしいよう。

恥ずかしいよう」て、

逃げたもんだから、

男の、あの、アダムは、追いかけて行たて。

しかし、男の方のアダムは何か知らんけど、

女の人をもう、好きになってしもうたて。

そいぎねぇ、天の神様は、

「花園の掟を破って、

お前【まえ】達は、

もうここにはおってはいかん。

お前達は死んまで苦しむぞう」て言うて、

お怒りになってね、

天から神様の声が聞こえたて。

そうして二【ふた】人【り】のアダムとエバは、

人間界を追い出されてしもうた。

そういうことで人間はさい、

死んまでいろいろな苦しみば始まったていうことです。

〔一六三  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P440)

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