嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

村にも休みの日も働く男のおったて。

その男、仕事がいちばん楽しみちゅうて、

盆でん正月でんなし、なかったて。

そいぎぃ、ある正月の七日に、

今日は七日正月ちゅうて、

誰【だい】でん休んでね、

仕事どませじ酒盛りばしおんしゃった。

そいども、その男はねぇ、働き者【もん】。

今日は余【あんま】い休むごたなかあ、

焚物【たきもん】ば

沢山【よんにゅう】取っとかんばあ、

と思うて、海岸端【べた】ば、

ウロチョロウロチョロして海岸に流れてきとっ、

あがんとば、何【なん】か流れ木どん拾うてね、

そいば持って行こうだい、

思うてしよらした。

あったぎぃ、

ズーッと流れてきよっ

木切れば拾うて行いおんしゃったぎね、

向こうん方で、

ガヤガヤガヤ、ワアワアワア、

うまいうまいうまいて、

手を叩【たち】ゃあたい、

アハハハアて笑【わる】うたい、

恐【おっそ】ろしか賑【にぎ】やかか

声の聞こえてくてじゃんもんねぇ。

ぎゃーん海ん辺【にき】も

七日正月のあいようとやうかねぇ、

て思うてねぇ。

ズーッと、その声の近か所【とこ】さい行きんしゃったて。

あったぎねぇ、

いちばん海ん中で声のしようたけん。

その男はこうして覗いてみたてやもんねぇ。

あったぎねぇ、

見たことでんなかごたっ立派か男ん人達のねぇ、

十人ばっかいも輪になって、

酒盛りしよんしゃった。

ありゃあ、こけも七日正月のあいよう、

て思うたぎぃ、その、

十人ばっかいおんしゃっとの一【ひと】人【い】の

この男ば目【め】ぇかかって、

「オイオイ。しゃべいないば、

お前も来い、お前もかたれ」て言うて、

呼びんしゃったけん、

言われたまま行きんしゃったぎぃ、

「お前【まい】も酒飲みえんばあ。

さあ飲め。さあ飲め」て言うて、

ピカピカの見たこともなかごと

金の盃の太かとば出【じ】ゃて、

そこん中【なき】ゃあ酒ばいっぱい注【つ】いで、

「さあ飲んだ。さあ飲んだ」て。

ところが、

そのお酒の美味【うま】かったちゅうもんねぇ。

今まで何処【どこ】でじゃい

ご馳走になったいどん、

あがん美味か酒はなかったて。

そいぎぃ、

「飲め飲め」て、言わるっまま飲みよったぎぃ、

もう日の暮れかかったけん、

「そいで、私ゃあお暇【いとま】します」て言うて、

「ほんに、ご馳走になりました」て言うたぎぃ、

全部【しっき】ゃどめ声ばそろえて、

「我が我が達の心で、

酒盛いしよったとば決して言うことならんばい。

言うぎぃ、お前【まい】は

大事【おおごっ】ちゃけんのう」て、

念ば押して、その、

海ん中で飲みよった人達の言いんしゃったて。

そいぎ男はねぇ、

「見たこってん、

あいよったこってん言わん。

約束すっ」ち言【ゅ】うて、出て行ったて。

そいどん、もう焚物【たきもん】のだんじゃなか、

木切れのだんじゃなし、

ヨロヨロヨロして来よったら、

村ん人に会【お】うたぎぃ、

「お前【おま】りゃ、

今日【きゅう】も仕事しようと思うとったぎ

酒飲みようたかあ。

何処【どけ】ぇで飲んできたと。

そげん沢山【よんにゅう】フラフラすっごとて」言うて、

仲間から、

「ああー。酒臭【くさ】か臭【にお】いのして、

このよいお前【まい】さんの

酔うとった初めて見たあ」て、

友達から言われて。そいぎねぇ、

「うーん。あそこの家で

酒盛いのあった所で金の盃で酒ば飲んで来た。

美味【うま】かったあ」

て言うて、そこでバタッて倒れて、

そのまま死んでしまわしたて。

約束ば破ったけん、

じき罰【ばち】のきたて。

そいばっきゃあ。

〔一六二  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P439)

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