嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

一軒の家でお父さんは、おん鳥【どり】を世話しておりました。

お母さんは、めん鳥の世話を。

もう自分のもう忠実に一遍に餌をやり可愛がり、大切にやりよって。

ところが、

お父さんが何時【いつ】か、お母さんがめん鳥の卵を沢山抱えて、

時々めん鳥のその卵を戴いて、食べて。

そうするとお父さんも、あんなに元気なのは、あのめん鳥の卵を食べているからだろう、

と思って、

「お前【まい】の卵が沢山あるから、私にもおくれ」て、言うたら、

「いやね。お前さんも鳥は鳥を飼っているじゃないか。それ産まさせたらいい」

て、嫁さんが言うたら、

「そんなに、私【わし】が世話しているのは、おん鳥だよ。男は卵を産むかよ」

と、怒りました。

絶対お母さんは、卵を自分だけ食べて、お父さんに食べさせようとはしない。

これをおん鳥チャーンと聞いていたんでねぇ。

そうしてある日のこと、

もうおん鳥はもう、とても大きく立派に育っているんですよ。

お父さんの管理が良くて、水もシッカリ飲ませてくれて、餌もシッカリ貰う、

立派なおん鳥でした。

そしておん鳥が、人間の言葉でお父さんに言うには、

「お父さん、こんなにお母さんが極悪、

お父さんが僕の世話をしているばっかりじゃっけん、

そこをとても好きなようには見えない。

『文句ばっかり、卵産まん、何も役立たん』

と、言うから、私しばらく旅に出ます。

出してください。今、お暇をください」

そいぎぃ、お父さんは、

「そうか。あんなに、ケンケンツケツケ言う。おっ母さんの言葉ばを、

お前も知っとったかあ。

そいぎぃ、

しばらく楽に、旅に行って楽をせおい」と、出したぎぃ、

おん鳥が、こんなに、鬼のようなお母さんがおることは、

お城の殿様に伝えてやろう、と思うとったんですよ。

そいで、

コトコトコト出て行きました。

そうしてねぇ、妙なことには途中で、原っぱで、

「おん鳥さん、おん鳥さん。

今日また、何処【どこ】にお一人でお出かけですか」

て、聞いたもんだから、

そしたらおん鳥は、

「私【わし】か。私【わし】はお殿様に、おっ母さんが私を嫌って、

悪口ばっかい言うから、お父さんまで困らせるから、

訴えてやろうと思うて、行きよっ」

「ほう。ほんに大仕事じゃろう。

私【わたし】が行ったこともないから、

お供をいたします」て言うた。

「そいじゃ、ついてお出で。羽の中に隠して」

そう言ったのは狼でした。

そいからまた、ズーッと行きよったら、今度は犬に会った。

犬は、

「おん鳥さん、今日は天気の良か何処に行ってるの」て言うた。

「いやあ。私【わたし】ゃ、

こうみえてもおっ母さんから、もう一緒に暮らしても、おっ母さんから憎まれて、

もう私ばっかいじゃなし、お父【と】ったんまで、散々懲らしめらているから、

殿様に訴えに行きよっ。

「そうですか。そういう私もみかけてもない。お世話になっ。

一緒に連れて行って」て言うた。

「そいじゃ、左の方には狼がいるから、右の方の羽の下に隠れてついてお出で」

またズーッと行きよったら、

もう菜の花のいっぱい咲いていたて。

そこには蜂がまた、いっぱい群がっていたんです。

そうして蜂の親分が、

「おん鳥さん、偉い陽気で何処行きよっかん」

「あーん。私ゃ、もうおっ母さんから大変憎まれているから、

もう殿様に訴えに行きよっ。

殿様に訴ゆう。ないと気がすまない」

「そう。私達ゃ、大勢いるけど、そんのお城なんか行ったことない。

私達もついて来【き】ゅう」て言うた。

「そう。お出で、お出で。羽ん中、もぐっとればいいよ」

と、羽ん中にいっぱいもぐって、ついて行った。

そうして、お城に行きましたら、門番が、

「何【なん】て逞【たくま】しいおん鳥だろう。何【なん】しに来たあ」

「お殿様に、じかにお目通り願いたい」

「まあ、何ば言いよっ。あっち行け、あっち行け」

ち、圧【へ】し折いしてドンドン、ドンドンお殿様の家来達が、

「こんなおん鳥なんかが来る所じゃない」て言うて、

「何処【どっ】か小屋に入れておこう」

「鳥小屋があるよ。鳥小屋に入れとって頂戴」て言うことで、

鳥小屋に入れておった。

羽の中に狼がいたでしょう。

狼が、

「こりゃあ、美味【うま】そうだあ」

と、小鳥ばもう、片っ端から食べにかかった。

「あらー。もっと沢山小鳥がいたのに、お正月に食うなかあ」

ち言【ゅ】うてね。

そうして、

「こりゃあ、大事。

鳥小屋に取りだと思うて入れたぎぃ、良くなかった。

今度は何処に入れましょうかあ」ち言う。

「ほんににゃあ。小鳥食べて罰だ。

そんなら兎小屋に閉じ込む」

ち、兎小屋の入り口の所に同じ押し込みゃらした。

ところが、

兎小屋に可愛いのがいっぱい入る所に、右の方には犬がおった。

そいぎ犬が、兎を追っ駆けて、

「これは美味しい肉だよ。美味しい肉だよ」

そいぎぃ、

今度もお仕置き入れたとが間違いじゃった。

こりゃもう、早くあちらに送り返さんといかん」

と、もう門の外にほい出【じ】ゃあて、

もう、ああ、おん鳥はとうとう、おっ母の悪口を散々言ってやろう、

と思うとったけれども、

また家【うち】に帰らしたてじゃないか。

そいでもあの、

おっ母に苦しみながら、すがすがと家に帰った。

「ありゃ、おん鳥の一時【いっとき】おらんで、

清々しとったとのまた帰って来た」

て言うて、怒鳴ったと。

そいから体中、身震いを、おん鳥が。

そうすっと、

羽の間に隠れていた蜂が一度にワアッと飛び出して、

その母ちゃんの顔といい、手といい、頭といい、足といい、もう寄ってたかって、

蜂がかぶりついたもんだから、

とうとう母ちゃんは気絶して死んでしもうた。

そいからは、残っているめん鳥の卵は、美味しくお父さんも戴き、

まあ、おん鳥も自分ばっかり別におらんで、めん鳥と仲良くしたら、

またひよこが孵【かえ】るち言うて、めん鳥と一緒におん鳥も暮らすようになったて。

そいばっきゃあ。

[一五八  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P434)

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