嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーし。

ある所に一【ひと】人【い】の樵【きこり】さんがおったて。

ある日、

「今日はひとつ大きか木を倒さんばにゃあ」て、独いごと言いながら、

鋸【のこぎり】を手に、その大木の前にパーッて、腰を下したて。

そいぎぃ、足元でさ、

何【なん】じゃい小【こま】ーか声のすってじゃっんもん。

そいぎぃ、ジーッと耳を澄まして聞いてむっぎぃ、その太か地えて。そうして、

「この木は切ってくれるな。頼みます、頼みます」て、小【こま】ーか声のすってぇ。

そいぎねぇ、

この人は変なことにゃあ、と思うて、

その木の根ん辺【にき】ば良【ゆ】う見てみたぎぃ、

小ーか小人のさ、沢山【よんにゅう】ウヨウヨしおったて。

そうして、

「この木は、小人の私達の家だぞ」て。

「切らんでおくれ。頼みます、頼みます」て、言うてじゃっもん。

不思議かにゃあ、と思って、

ぎゃん言うもん。こいば今日【きゅう】は倒そうで思うて来たいどん、

と思うて、何【なーん】も木は切らじその樵さんは山から帰ったて。

そいから、

何日でん経ったから、また何時【いつ】もんごと山で木を倒しに行たて。

そうして、

疲れたもんじゃい一休みしゅうで思うて、休んどったぎぃ、

足音がこそばいかてじゃっもん。蟻に別れよっとかにゃあ、

と思うて、こうして足を障【さわ】ってみたぎぃ、

この間みた小人やったてぇ。

そうして、小人の、

「あっち行けぇ。あっち行けぇ」

て、樵さんな鋸ば担いで小人の指さす所【とこ】さい急いで行たて。

あったぎぃ、

一時【いっとき】したぎぃ、ドサーッて、音んして、

太か音んして、良【ゆ】う見てみたぎぃ、

さっから自分が切りかけとった木が、バターッて倒れて、

樵さんな命拾いしたあ。

あの小人どまひっしゃげたろうだい、と思うて、見てみたぎなんの、

つんぴしゃげとらじぃ、倒れた木の上に立って、

そうして、その樵さんを手招きしおっちゅうもん。

そいぎぃ、

小人ん所に行たてみたぎぃ、

木の根元にねぇ、大判てん小判てんが、ピカピカ光いよったて。

その樵さんな夢じゃなかろうかにゃあ、と思うて、つっ立っとたぎぃ、

小人の、

「これは本物だよ。みんな持って行け。持って行け」て言うて。

そいぎもう、樵さんな一遍にそいば持って帰ってね、金持ちさんになんさったて。

そいばあっきゃ。

[一五七  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P433)

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